ホーム党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2023年11月25日号 8面・通信・投稿

男性看護師をヒーローに

ナースメン・秋吉崇博さん

 コロナ禍をへて、看護師をはじめとする「エッセンシャルワーカー」が、その社会的重要性に比して、著しく劣悪な労働環境におかれていることが明らかになった。また、就業している看護師は約120万人いるが、男性はその1割以下で、介護士でも男性は2割程度にとどまり、そこにも独自の悩みや課題が山積している。政治の責任として待遇改善を図るよう求める男性看護師による自主的な活動が始まっている。男性看護師による全国的なネットワークである一般社団法人「ナースメン」代表理事の秋吉崇博さんに聞いた。(文責・編集部)


――「ナースメン」を設立した趣旨は、どのようなことですか。

秋吉 ナースメンには現在、約300人が所属しています。
 僕は団体設立前、看護師として10年ほど働いていました。
 歴史的にいえば、看護現場に貢献してきたのは間違いなく女性です。男性看護師も徐々に増えてきましたが、依然としてマイノリティーです。
 男性看護師が職場のことで何か相談したいと思っても、異性が相手だと気を遣ったり、相談しづらいことがあります。待遇面では男性用更衣室がなかったり、すごく狭いところで着替えたりしなければいけないなどの実態もあります。
 これではモチベーションを高めることは難しい。当然、男の子から見ても「憧れの存在」にはなり得ません。女の子では、長年「白衣の天使」というイメージもあり、看護師は「なりたい職業」のトップ5に入っています。一方、男の子では 位以下で人気が低いのが実態です。
 仮に看護師になっても、先ほどのような理由なども少なからず影響して辞めてしまうので、男性看護師の数は全体の1割を超えていない状況です。まさに「穴のあいたバケツ」で、看護師の資格を持っているのに看護師として働いていない人、「潜在看護師」が多数います。
 僕はこうした環境を変えたいと思い、友人に呼びかけてナースメンを立ち上げました。
 ナースメンのミッションは「一生成長、一生看護」。ビジョンは、「看護師が生きやすい世の中をつくる」「ナースメンを100年続く企業にする」「男性看護師を『将来なりたい職業』のトップ3に入れる」の3つです。

――具体的な活動内容について教えてください。

秋吉 まず、自然災害に遭った地域に入っての医療活動です。一般枠でしたが、静岡県熱海市の土石流被害(2021年)などの現場に、ボランティアで駆けつけました。
 もう一つは、胸骨圧迫の方法と自動体外式除細動器(AED)の使用方法を普及させることです。現在、日本で年間8万人が心臓の病気で亡くなっています。30歳代の人が朝、亡くなっているという「心臓突然死」もあります。
 AEDの設置が進み、自動車教習所では人工呼吸や心臓マッサージ、AEDの装着法などを学びますが、「実際に助けられる自信がある」という人はほとんどいません。
 そこで、僕たちは各種イベントに救護要員として参加したり、救命実演や講演、SNSでの動画配信を行ったりしています。最近、ある外食チェーン企業と連携して全国で講習会を行うことも決まりました。
 自分たちで甘酒をつくる活動もしています。甘酒は「飲む点滴」といわれるほど体によく、ノンアルコールなので妊婦さんや子どもでも飲めます。キッチンカーを借りてイベントの場で配ることで、「飲む点滴」を広めたいと思っています。
 また、毎月1回ペースで、医療関係者を中心に交流会を行っています。看護師は、勤務先以外での付き合いがあまりありません。いろいろな働き方をしている看護師、医師、ときには問題意識を持つ地方議員に交流会に参加してもらい、刺激し合うことで、新しい活動が生まれればよいと思いました。もちろん、悩みや相談事も出し合えればよいと思います。
 今後は、スマートフォンのアプリを使った活動も考えてます。
 以上のように、ナースメンの活動は楽しさ、「エンタメ寄り」なことが特徴といえるかもしれません。

――目指していることは何でしょうか。

秋吉 分かりやすくいうと「ヒーローになる」ことです。人びとが困ったときに駆けつける、夢を与える、それがヒーローじゃないですか。事件・事故が起きて助けを求められたとき、皆が「ナースメンが来てくれる」と思ってくれる状況を目指しています。
 救急現場で働いていたとき、「症状がここまで悪くなる前に、なぜ来院できなかったのか」と感じることが多くありました。日頃から健康を維持し、皆の「健康寿命」を延ばしていくようにしていかないといけない。
 今後、AI(人工知能)が進化し、病気やその兆候を見逃さないようになっていくでしょう。それでも、患者と顔を合わせて目を見て、肌触って体温を確認したりする看護師の役割はロボットでは代替できません。信頼関係は手を握り背中をさすってこそ生まれると思います。看護師の仕事はAIには奪えません。
 だから、質の高い看護師を増やしていかなければなりません。そうしないと「穴の空いたバケツ」のままです。
 看護師を男の子の「なりたい職業」の上位にするということは、そういうことだと思います。

――皆さんにとって、日本の医療・介護の現状はどのように見えますか。

秋吉 介護も看護でも、どうしても「安く使おう」「質より量」という発想が強いように思います。
 介護現場は、とくに大変だと思います。つらい仕事なのに給料が安い。そりゃあ辞めますよ。医療現場、とくに救命士も同様です。
 ナースメンにも外国人のメンバーがいますが、かれらはすごい努力をしています。お互いの得意不得意をカバーして助け合っていかなければならない。
 全体に、医療・介護労働者の質を高める政策が求められていると思います。当然、給与水準も上げる。そうしてこそ、皆が努力する環境がつくれ、「人手不足」が解決するのではないでしょうか。
 それらのことなしに「AIなどDX(デジタルトランスフォーメーション)で」というのは、根本的な解決策ではないと感じます。政治の世界に医療現場を知る人がもっといてほしいと思います。

――命を守る医療関係者として、ウクライナや中東での戦争をどう思いますか。

秋吉 「国境なき医師団」の人から話を聞くことがあります。
 医療関係者は人を助けるのが仕事なのに、そのすぐ横に爆弾が落とされ虐殺されている。現実だとしても信じたくないですね。
 日本は平時でも看護師数が足りないので、万が一戦争になって駆り出されると国の医療体制は崩れてしまうでしょう。それは絶対に嫌ですね。
 僕としては「命の重み」を感じてもらえるような活動を強めて、ナースメンを大きくして、社会への発信を強められるようにしていきたいです。

――ありがとうございました。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2023