ホーム党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2022年5月15日号 9面・通信・投稿

「介護士の賃上げ」言われるが…

時給は10年も上がらず

岡山県・介護施設職員

 定年後、介護施設で働き始めて10年になります。
 勤め先の事業者は、デイサービスを中心に、特別養護老人ホームなども手掛け、介護士、警備、給食、私のような運転手を含めると約70人が働いています。地域では有名な介護サービス企業といえます。
 私の業務は、デイサービス利用者を送迎する自動車の運転と、掃除などの雑用です。仕事は朝夕の2時間ずつで、お昼どきには自宅に戻って休憩します。就労時間が不規則なので、自宅に帰れる施設近隣の人にしか適さない職種です。
 送迎専用車は5台あるので、本来は運転手も同人数が必要です。ただ先述の事情なので応募がなく、現在は4人でやりくりしています。この2年ほどで2人が退職する一方で、応募と採用は1人だけでした。しかもその2人は退職後数カ月で亡くなってしまいました。いつの間にか職員のなかで「辞めると死ぬ」という「伝説」(?)が生まれたほどです。要するに高齢者ばかりが集まる職場ということなのでしょうね。

最賃との差が次第に縮小
 新型コロナウイルスの感染拡大によって、デイサービスの利用者は減りました。経営者は「厳しい」と繰り返していますが、実態はどうなのでしょうか。ハッキリしているのは、私の時給が10年間、1円も上がっていないことです。
 それでも、働き始めた頃は県の最低賃金を300円近く上回っていました。「自宅からも近いし、まあまあの仕事だな」と思って続けたのですが、「今は昔」です。10年間の時給据え置きで、最賃との格差は100円弱にまで縮まってしまいました。
 時給に微妙に差はありますが、他の職員の給与も上がっていないようです。
 そこに、最近の物価上昇です。近所のガソリン価格は「1リットル=165円」程度で、1年前から20円以上も上がっています。自動車による通勤をバイクに切り替えて燃料費を節約している同僚もいます。事業者から支給される交通費は上限が決まっていますので、交通費の収支が大きく赤字になっている人もいるようです。
 自慢ではありませんが、自動車の運転だけはかなり上達しました。高齢者を乗せた自動車ですから、慎重な運転が求められるうえ、市内は坂が多く道も狭隘(きょうあい)です。送迎車は車体の後ろが長いワンボックスですから、場所によっては切り返しに手間取ります。しかも利用者さん宅への到着は前後5分以内と設定されているため、交通事情によっては急ぐ必要があります。
 何より、雇用契約は1年間の更新制で、とても不安定です。
 このような事情で、なかなかにストレスのかかる毎日です。

「介護賃上げ」の恩恵なし
 2月から政府による介護職員への賃上げ施策が始まりました。具体的には職員1人あたり月額9000円が支給されます。文字通り実施されれば年間10万円以上のアップです。
 ですが、対象になるのは介護業務をメインとする職員だけです。私のような職種は元来対象外です。ただ、配分は事業者が決めてよいことになっています。介護士以外に配分される可能性もあるのですが、少なくともうちの事業所では運転手には配分されていません。また今のところ介護士が「賃金が上がった」と話しているのを聞いたこともありません。
 利用者と最前線で接する介護士の皆さんがさまざまな苦労をしていることは理解しています。ただ、私のような運転手も、清掃労働に従事する仲間も、賃金の原資は同じ「介護報酬」です。「介護業務をメインとする職員だけ」という政府の政策はとても納得できるものではありません。
 政府は賃金改善に使われた合計額が国からの補助金の合計額を上回ることを求めているようです。うちの事業者がどのような賃金施策を行うつもりなのか、いろいろ聞いて調べてみようと思っています。そして、仲間の不満を組織できればと考えています。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2022