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労働新聞 2022年5月15日号 10面・通信・投稿

大手流通資本に人生を翻弄された友人

涙と怒りの身の上話を聞いて

埼玉県・高橋 義幸

 いまだに収拾のつかないコロナ禍の中、高校時代の友人Y君から「会って話がしたい」との電話があり、注意を払って15年ぶりに会った。
 彼は3人きょうだいで唯一の男性で、祖父の代から続く家業の米穀商(米屋)を継ぐよう幼い頃から両親に期待されてきた。彼もそのつもりで、毎日高校から帰るとバイクに米を積み配達した。卒業後も昼間は店を手伝い、夕方から大学の夜間部に通い、将来のためにと簿記と経営学を学んでいた。その姿が今も記憶に残っている。
 居酒屋で待ち合わせ、酒がすすむ中で、Y君は目に涙を浮かべ、こんな話を始めた。
*  *  *
 俺の代で家業の米屋をつぶしてしまったよ。自分が中心となり店を回してきたが、1990年代、近くに大手スーパーが出店、そこは毎週日曜に「朝市」としてテントを張り、米5キロ、10キロを、うちの仕入値よりも安い価格で売りさばいた。スーパーは米を客寄せの目玉として利益度外視で販売しても、他の食品や衣料品、雑貨を買ってもらえれば「損して得取れ」で済むが、米を商売の柱にしているこっちはたまったもんじゃない。
 それれから売上がどんどん右肩下がりに落ち込んでいった。さらに小泉政権による構造改革・規制緩和で、スーパーへの米や酒類の販売規制が撤廃され、またコンビニの酒類販売免許も緩和され、この先個人の経営努力だけではどうにもならない、お先真っ暗と思い知らされた。
 そんな時に、大手コンビニの店舗開発担当者が「うまい話」をもってきた。それは「365日24時間営業で、来店客は途切れない。売場構成、新商品導入、会計管理等も本部がしっかりサポートしますよ。お宅には米・たばこという強い武器がある。契約期間10年。利益配分はオーナー様が60%、本部が40%、バッチリ儲(もう)かりますよ。オーナー様は発注とパート・アルバイトの採用・教育・勤怠管理に専念を。将来、会社組織にして社員を雇い、2店舗、3店舗と増やし、ご夫婦で海外旅行を楽しみましょうよ」と。
 夫婦で悩んだ末、先行きを考え加盟することにした。早速、契約して加盟金300万円、店舗改装費2500万円を蓄えと借金からつぎ込み、10日間の研修で開店となった。
 実際に始めてみると、本部指導の各時間帯2人勤務体制は、支払う人件費ばかりが大きく膨らみ儲けが薄い。借金返済もあるので、アルバイトを1人ずつ減らし、家内が朝7時から15時まで、自分も15時から夜勤者来る23時まで店に出て働くようにした。しかし、アルバイトは当日休んだり急に辞めてしまうこともあり、その穴埋めを自分か家内が勤務に入ってやり繰りする、毎日が追われるような生活で、テレビは見なくなり、曜日の感覚もなくなった。それこそ365日24時間、身も心も休まる時がなく、すれ違いの生活が続き、家族や夫婦の仲も悪くなった。
 開店から3年が経った頃、売上が日販(1日の売上)が50万円代にアップしたが、近くの酒屋が同じ本部のコンビニに加盟し、また売上が低迷するようになった。家内と話し合い、本部の担当者に「やめたい」と相談したところ、「開店から5年半経過しないとチャージ料(経営指導料)の6カ月分(1300万円)を違約金として支払う契約だ」との説明に驚き、やむなく継続することにして、何とか営業を続けた。契約満了の10年目で脱退し、自営業も併せて廃業したが、本当につらい10年だったよ。
 ひどいのは、自分が加盟するコンビニの本部担当者が近くの酒屋へあいさつ回りをした際、他のコンビニに加盟しそうだと聞き、特別条件を出して加盟させ、うちと同じ看板の店を出店させたこと。本部はどちらの店からも毎月チャージ料を得られるのでいいが、同じ看板で同じ商品を扱う店が近距離にあるこっちはたまったもんじゃない。
 本部は加盟店を、まるで長良川でアユを獲(と)る鵜(ウ)と同じで、鵜(加盟店)の数を増やせば獲るアユ(本部の儲け)が増えるからいい、という企業利益至上主義。その売上で生計を左右される加盟店の家族の人生など無視だ。
*  *  *
 このように彼は怒りをにじませながら話した。将来の夢とその人生を、スーパーやコンビニの大手流通資本に翻弄された彼は、新自由主義経済の犠牲者そのものである。


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