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労働新聞 2022年3月25日号 6面・通信・投稿

全国水平社創立100周年に想う

山本 いずみ

 三月三日は、世間一般では女の子の健やかな成長を祈る節句の行事・ひな祭りの日だが、私たち被差別部落民にとっては何よりも特別な日である「全国水平社の創立記念日」だ。ちょうど百年前の一九二二年三月三日、京都市の岡崎公会堂で西光万吉を中心とした被差別部落出身の青年たちは、世の中のあらゆる差別や偏見がない「水平」な世の中をめざして、自らが立ち上がり人間を尊敬することによって、自らの自由と平等を求める運動を起こした。この時に採択された「水平社宣言」は被差別マイノリティが発信した世界初の人権宣言である。
 私がこの宣言を知ったのは小学校高学年の時だった。私は被差別部落地区において、被差別部落出身の精肉卸売を家業とする両親の元に生まれ育ち、小学校に入学すると解放子ども会で差別や戦争のおかしさをものごころがつく前から学んでいた。
 宣言自体は言葉も難しいが、冒頭の「全國に散在する吾が特殊部落民よ團結せよ」と高らかに呼びかける部分を見て胸が高鳴り、鳥肌が立った。
 そして文中の「吾々がエタである事を誇り得る時が來たのだ」という部分を見て、差別され続けてきた自分たち自身を誇りに思い、すべての人間を尊敬して立ち上がっていこうと心に決めた。「エタ」「ヨツモン」と言われ学校や仕事場で差別され辛い思いをしてきたことを祖母から聞いてきたため、この言葉がどれだけ重く、そして素晴らしいことであるかを感じ、衝撃的であった。
 最後の「人の世に熱あれ、人間に光あれ」は、何度聞いても胸が熱くなり、涙があふれてくる。「熱」は人のぬくもりや温かさ、「光」は希望の光であり、被差別部落出身の人だけでなく、すべての人びとが平等で差別されず尊敬される世の中を願っている。これが百年経った今でも色あせず人の心を打つのである。
 現代の私たちにも、部落差別をはじめ人種や民族、障がいやセクシャリティなど、マイノリティの前に社会の壁が依然として立ちはだかっている現実がある。宣言はそんな社会に向き合う指針となるはずだ。私自身、被差別部落出身であること、解放運動や同和教育の中で支えられ育てられたことを誇れるようになったのは、二人の子どもを授かり、解放運動の中で学びながら、自分自身と向き合うことができたからである。その時必ずこの宣言が私自身の心にあった。
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 マイノリティ当事者として市役所や障がい者支援作業所などで仕事し、障がい者、シングルマザー、受刑者などのマイノリティの人びとと出会う中で、マイノリティが抱える困難さ、当事者であってもその苦しさや困難さに気づくこともできず、声を上げることもできない人もいた。
 被差別の立場である自分も見ようとしなければならない。一方で加差別者にもなり得る自分にも向き合いながら、自分ごとに置き換えて相手の思いに寄り添うことを大切にしてきた。
 また、部落解放運動の中で学びながら、自分の中で腑に落ちない日本社会の構造、世界を取り巻く情勢をもっと学ぶことが必要だと感じていた。そして、学び、気づき、仲間と連帯し行動することで、どんな状況に置かれた人間でも自分らしく生きられるような社会を変えていくことができるのではないかと労働党の学習会に参加するようになり、入党するきっかけになった。まだまだ学びが浅く、自分で理解し問題点を伝えられるまでには至っていないので、これからも学び続けていきたい。
 今の私には二つの目標がある。一つは、教員採用試験に合格し、正規教員となり、二人の子どもを育てあげること。子どもたちを、自分らしくしたたかに、しっかりと生きていけるように支えていくこと。もう一つは、地区出身教師として地域の子どもたちに寄り添い、差別を見抜く、仲間と連帯し社会を変えていけるよう育てていくことだ。
 昨年から解放運動の中で出会った先生の勧めで、自分が巣立った小学校で常勤講師として働くことになった。教育現場での経験がない私に声をかけてもらい、教師としては山ほど学ぶことがあるが、これからも宣言を心に、部落解放とすべての人たちに「熱と光」がある社会をめざして、次の世代となる子どもたちにバトンをつないでいきたい。


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