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労働新聞 2022年3月5日号 5面・通信・投稿

『ぜんぶ運命だったんかい』を読んで(4)

共感広げ「検察庁法改正」を阻止

大阪府・小池 日向子

 帰国した笛美さん。フェミニズムの行動に震えながら参加したりと、活動開始します。なかでも「フラワー・デモ」のように花束を持って集まり性暴力根絶を訴えるというメッセージ性のある行動は、緊張したり震えたりすることなく、参加しやすかったそうです。
 そんななか、笛美さんは原因不明の体調不良に襲われます。コロナによく似た症状。しかし保健所に電話はつながらず、PCR検査を受けることもできない…不安にかられて「どないなっとるねん」と国会中継を見ました。そこには原稿を読み続ける国会議員、質問に真正面から答えない首相、お肉券、旅行券…ちょっとまって、私はPCR検査すら受けられなくて、不安でいっぱいなんですけど!?
 笛美さんは政治の「ダサピンク現象」がてんこ盛りで実際の生活者を顧みていないことに衝撃を受け、「これではいけない!」と、どんどん政治にコミュニケーションをとるようになります。
 特に二〇二〇年の通常国会で「安倍政権(当時)による検察の私物化」などと問題となっていた「検察庁法改正案」の動きに対し、いてもたってもいられず、地元の自民党議員二人に生まれて初めて電話もし、法案を止めてもらえるようお願いしましたが、平和そうな秘書の声に、温度差がありすぎることを感じずにはいられなかったといいます。
 進む「改正」の動き、つのる焦燥感。せめて自分のまわりに何が起こっているか知らせよう、自分が言いやすい言葉でツイッターで声を上げ、政治に声を上げられない人でもツイッターでリツイートする敷居を低くしたい。燃えるような怒りというより、静かな意志を感じられる表現、共感していることの表現方法で。彼女の投稿からは人を信じる心がにじみ出ていています。
 たったひとりから始まった笛美さんのツイッター・デモですが、投げられた小石の波紋はみるみる拡がり、野党議員がとりあげたり、芸能人も発言するようになり、わずか三日弱でリツイート数は四百七十万件に上り、日本だけでなく世界のトレンド一位となりました。
 笛美さんには、これを機にうれしい出会いもありましたが、すさまじいバッシングの嵐もあったといいます。しかし、本を読んでいると、バッシングに対する笛美さんの軽やかな反論が心地よく頼もしかったです。
 ここまできても真正面からこの問題を取り上げようとしない国政。どうすれば政治家は動くのか、笛美さんは疑問を投げかけます。するとツイッター上でたくさんの人からアドバイスがあり、自分の街の国会議員にメールか電話で働きかける方法を広めるため、笛美さんが例文をつくって公開。デモ参加者に方法を伝えて、みんなで政治家にコミットすることになりました。
 運動が盛り上がるなか、黒川検事長(当時)が緊急事態宣言の最中に賭け麻雀をしていた報道があり、審議は中断。一カ月後、ついに検察庁法改正案の廃案という結果を勝ち取ることになりました。
 笛美さんは、結局は賭け麻雀を「週刊文春」がすっぱ抜いたことが廃案の決定打であったのではないかと肩を落としますが、ツイッターで広がった地元国会議員に対するプッシュの広がりと、世界に広がった世論を前に、安倍政権が降参したことは紛れもない事実です。笛美さんの、言いやすい言葉や自分の言葉として他の人も広めやすい言葉への配慮、人を信じること、こられすべてに応えた人が約五百万人いたことが、目に見える世論となり政治を動かしたのだと思います。
 労働運動をする人のなかには、笛美さんのことを一握りの高所得者の話だと引いて見る読者もいるかもしれません。しかし笛美さんの経験は、まぎれもなくジェンダーギャップ指数が高く、幸福度は低い日本で一人の女性が経験してきた苦悩であり、家父長制とそれを利用した政治経済政策のあおりを受けた真面目でがんばり屋の女性労働者の顛末(てんまつ)といえます。(続く)


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