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労働新聞 2022年2月5日号 8面・通信・投稿

『ぜんぶ運命だったんかい』を読んで(1)

男性中心の企業風土に絶望

大阪府・小池 日向子

 今回、私は書籍『ぜんぶ運命だったんかいーーおじさん社会と女子の一生』をご紹介します。著者の笛美さんは「#検察庁法改正に抗議します」のツイッターデモの仕掛人でもあります。当初は簡潔な書評とする予定でしたが、本書を読み進むにつれて、自分の人生とシンクロすることも多々あり、とても簡潔に評して終えることができず、数回に分けて投稿させていただきます。
 第一回目である今回は、広告代理店で男性に交じって猛烈に働く少数の女性として、苦悩しながら生き延びてきた二十歳代の笛美さんが直面した企業風土、男社会で女性が仕事に生きること、結婚や出産をめぐる社会や他者や自分の内側からの見えない圧力などについてご紹介します。
 次回以降は、会社のインターンでF国に短期滞在することになった笛美さんがそこでフェミニズムに出会い、それまでに遭遇した数々の謎が答え合わせされ、一人の人間として生きる自分を取り戻したことや、帰国後に政治的なことに関心をむけた笛美さんがツイッターデモを呼びかけ、たった一人で始めたそのデモが国内外に爆発的に拡散し、ついにこの法案は廃案に追い込んだことなどについて、私の共感や想いも交えながらお伝えしたいと思います。
 このデモは、今まで多くの人の心の中にあった強い想いが表出し、政治を変える力となったできごとでした。「こんなひどい政治に対し、日本の人はなぜ怒らないのか」と、人間のもつ力を信じられなくなっている人も少なくないと思います。この本は社会運動の今後を考える時に多くの示唆を与えてくれていると思います。
*  *  *
 広告代理店に勤めていた笛美さんは、二十歳代をバリキャリ(バリバリ働くキャリアウーマン)として走り続けました。そこで笛美さんはおじさん社会での不思議な「あるある」に直面し続けます。
 たとえば、広告や商品デザインの現場で「女の子はピンクが好き」という男性上層部の思い込みから、当の女性には好まれないデザインが生まれてしまう『ダサピンク現象』が生み出され続けるなど。この現象は、政治においても当てはまりそうです(詳しくは後の連載に書きます)。
 また「高学歴・高収入」が女性にとっては恋愛や結婚を遠ざける実際にも悩まされます。「もし私が男だったら、きっと多くの女性にモテて、今頃美人の奥さんとかわいい子どもと愛人がいたんじゃないか…同じスペックでも性別が違えばまったく別の運命になってしまう…ぜんぶ運命だったんかい」と心底嘆きツッコミます。
 結婚相談所に入った二十八歳の笛美さん。そこで出会った男性のなかには家族にプレッシャーをかけられて来たという人もたくさんいたそうです。
 その頃彼女はネット掲示板の「2ちゃんねる」を見るようになりました。「非処女死ね」「二十八歳のBBA(ババア)をやり捨てにした」「三十歳以上は産業廃棄物」…そうか、自分は三十歳になったら産業廃棄物になるんだ、じゃあ三十歳になるまでに死にたい。そう思ったといいます。
 その頃の二〇一六年当時、電通の新入社員だった高橋まつりさんが、前年のクリスマスの朝に自殺、大きな話題になりました。笛美さんは「まるで冬のコンクリートの冷たさを肌で感じた気がした」といいます。高橋まつりさんの生前のツイッターの書き込みを見て、辛いのは私だけじゃなかったと、強く共感しています。
 「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな(私…充血もダメなの?)」「男性上司から女子力がないだのなんだのと言われる…我慢の限界」「異性とまともに愛を育む時間がなく子孫を残せる可能性がないのでは? と危機感を覚えてるのに、しっかり生理痛だけには悩まされてるのかわいそうじゃないですか?」など。笛美さんは共感し、「ああ、怖いくらいわかりすぎる。自分は子孫を残せないかもしれない絶望感。でも体は子孫を残すために機能し続ける虚しさ」と言います。
 ニュースではまつりさんの「残業月百時間」という労働環境の劣悪さばかりが注目されましたが、笛美さんはどこかピント外れな気がしていました。実際、広告業界では月百時間労働はざらにあり、「まつりさんを苦しめたのは、長時間労働に加えて女性だからこその終わりのない苦しみだったんじゃないか」と問いかけます。
 翌一七年には「#MeToo」ムーブメントが起こります。笛美さんは、気になってはいたものの、正直よくある話だなというふうに、近くて遠い世界のできごとのように眺めていました。当時の笛美さんの心の辞書に「人権」の文字はあっても、女性に対する人権侵害の現実が結びつかなかったと述懐します。
 そんななか、仕事に青春を捧げ婚活戦争に連敗した笛美さんは「産業廃棄物」といわれる年齢を迎えます。やがて笛美さんは、頭の中で毎日「生きていてごめんなさい」と唱えるようになってしまいました。(続く)

亜紀書房、1540円(税込)


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