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労働新聞 2021年11月15日号 5面・通信・投稿

テレメンタリー「なんで見えない
〜名古屋入管で起きたこと〜」
を見て

入管ににじむ日本の闇

 今年三月、名古屋出入国在留管理局で収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した事件。彼女は約六カ月に及んだ収容期間中に何度も体調不良を訴えたが、名古屋入管がかたくなに病院での診療・治療を拒んだ結果、三十三歳の若さで逝去した。この事件に関し、遺族や支援者は入管の責任を追及しているが、入管庁は亡くなる前の監視カメラの全映像の公開を拒むなど、真相究明には程遠い状況だ。
 こうした中、テレビ朝日系列のドキュメンタリー「テレメンタリー」で十月三十一日、名古屋テレビ放送が制作した「なんで見えない〜名古屋入管で起きたこと〜」が放送された。仮放免後に彼女の身元引受人となるはずだった眞野明美さん宛に書かれたウィシュマさんの手紙や、八月に入管が公表した調査報告書などを元に、彼女の心情や亡くなるまでの状況を浮き彫りにしようとしている。
 入管の蛮行については、これまでもさまざまな報道で垣間見ていたが、彼女自身の言葉が紹介されていたのは新鮮だった。手紙で眞野さんに「人間に生まれてきてよかったです。動物よりも、私たち人間は深く考えることができるから、許すこと、助けることができるのです」と語っていた彼女が、人間として扱われず、死に至るほど体調が悪化しても助けてもらえず、生きることが許されなかった。まさしく非人道的としか言い様がない。
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 番組では入管の体質以外の問題にも問いを投げかけている。メディアは彼女が施設に収容された後のことはそれなりに報道しているが、収容される前の問題についての報道は少ない。
 とういうのも、彼女は日本語を学ぶために来日した留学生だったが、日本でスリランカ男性と交際・同居するようになると、DVを受けるようになる。暴力に加え、金銭を巻き上げられるなどの被害に遭い、身心の不調や経済的な理由で日本語学校に通えなくなり、在留資格を失う。そして昨年八月、ほとんど着の身着のままの状態で助けを求めて警察に駆け込ぬが、「不法滞在者」として入管に送致されてしまう。
 DV被害者に対しては、警察も入管も「措置要領」に従い配偶者暴力相談支援センターなどと連携して対応することが義務付けられている。彼女が入管施設に収容された際、「元恋人と同居していた時、殴る蹴るの暴力を受けていた。無理やり中絶させられた」と打ち明けていたのだがら、警察や入管は彼女をNGOなどと連携してシェルターに保護するべきだった。
 この一件で、行政の一角である警察や入管のDV被害やその対応への意識の希薄さも露呈したのではないか。
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 私はこの番組を、テレビではなく、ネット上に公開された動画として見たのだが、だからこと再認識させられたこともある。
 この番組の動画に対しては、高い評価と同時に低い評価も同じぐらいに多く、コメント欄はほとんどが「不法滞在者は強制送還に」などの排外主義的な書き込みで占められている。組織的な関与も感じさせる異様さだ。
 しかも、なかには「私はスリランカ人ですが、不法滞在は迷惑です」というような書き込みもあるが、読んでみると、本当にスリランカ人が書き込んだものなのか疑わしい印象を持った。ウソでもデマでも何でもアリでとくかく「不法滞在の外国人」を攻撃し、しかもそれを楽しんでいるという雰囲気を感じざるを得ない。
 この雰囲気は、まさに入管内にあるものと地続きなのではないか。ウィシュマさんに対する入管職員の対応にはかれらの「快楽」が隠せない。
 この事件が浮き彫りにする日本の「病」はことのほか重いのかもしれない。


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