ホーム党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2021年10月5日号 6面・通信・投稿

人手不足とコロナ禍の中で

職場守るため結束

介護施設職員・大森 泰一郎

 新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから一年半以上、常にコロナコロナに追われ、社会はさまざまに翻弄させられました。多くの職場・現場で矛盾が激しくなっていると思います。緊急事態宣言は解除されましたが、この冬には第六波が来ると予測されており、とても「コロナ空け」になるとは思えない昨今です。
 私の住む地域は、人口超過密な大都市圏とは違い、この期間に公表されている感染者数はトータルで六千人弱です。一日五千人感染などという状況もあった東京などとは大きく様相が違うのですが、それでもコロナウイルスは地域を選びませんし、医療体制のぜい弱な過疎地を抱えており、大騒動の連続でした。
 私は看護職として、介護・福祉の職場に勤めています。勤務する会社は六つの事業所を展開しており、従業員は運転手などのアルバイトを除いて全体で百五十人ほどの規模です。デイサービス、ショートステイ、グループホーム、有料老人ホームなどを抱え、この十年間で急速に事業を急速に拡大してきた会社です。
 私個人は、前の病院で上司と馬が合わず、言わばパワハラもどきに遭い、労働組合結成も追求しながらさまざまな抵抗をしていましたが、やむを得ず退職しました。その後、看護職で介護施設の経験が豊富ということで今の会社に雇われることになりました。しかし、急速に大きくなった会社のご多分に漏れず、職場ではさまざまな課題・難題に直面しています。

試行錯誤の連続の一年半
 昨年三月頃までは、コロナ感染拡大と聞いても、何か対岸の火のような感じでしたが、五月頃にはバタバタと対策に追われるようになりました。しかし役所の方から対策方法や決まりが指導として「きちんと降りてくる」わけではありません。それぞれの施設がそれぞれに充分な対策を考えるしかなく、コロナ対策と業務はまさに試行錯誤の連続でした。
 私の職場は高齢者相手の施設です。何かあってはいち大事。当然「職員は全員マスク、利用者もマスク着用」と当初決めました。当たり前のようですが、実はこれが大変でした。
 仕事に入浴介助があるのですが、蒸し暑い浴室で、かつマスクを着用しての介助。機械で簡単に介助できる方ばかりではなく、中には力の要る重労働が強いられる人もいます。マスクを着けていてはゼーゼーハーハーで熱中症手前という職員も出てしまいました。「マスクはいいが、これでは身体が持たん」「役所の指導や決まりが出ていないので、いったいどうするか?」すったもんだの議論となりました。
 皆で相談した結果、デイ・ショート・グループ、それぞれの現場の具体的ケースに分けて、職員のマスクの着用/非着用を決めました。この処置が医学的に見て正しかったのかどうかは別として、職員にも利用者にも幸いにもこれまで感染者は出ていません。
 食事時も大変でした。今ではパーテーションは普通となっていますが、突如バラバラに遠く分かれて座ってもらい密を避ける食事の開始。ディの食事を楽しみにやって来ている人に「個食」だの「黙食」だのと言っても始まりません。気の知れた利用者同士でわいわい話しながら食べるから家での食事と違っての楽しみがあるのですから。
 利用者にとってとても辛いことは家族との面会が遮断されたことです。感染を外から持ち込むことを避けるため家族の面会は制限せざるを得ませんでした。これもまた試行錯誤です。当初は緊急事態が宣言される度に遮断、再開、遮断と続きました。なかには家族が遠くにいる人もいて、せっかく面会に来ても会うことができないという事態がしばしば生まれました。双方にとってとても辛く悲しいことです。今ではパーテーションで区切られた談話室内に限り、一定の制限時間を設け、いつでも何度でも会えてようにしました。
 その後、ワクチン接種が始まりました。希望者には一刻でも早く打ってもらおうと、これもまた職員は緊張を強いられました。従来はなかった業務です。
 利用者はいくつもの自治体から来ています。自治体ごとに集団接種、個別接種、かかりつけ医での接種と別れているバラバラな実態です。いつ、どこで、誰が接種できるか。その連絡調整が実に大変でした。しかもようやく確定した接種日にたまたま体調がすぐれず延期となると、さらに再・再々調整となります。
 加えて集団接種の場合、当然会場までの往き来の介助が必要です。政府の接種方針であり、国が当然これを保障するものと思ってました。しかし、実はこれに介護保険が適用できないケースがあることが分かりました。ヘルパーさんに頼むわけには行かなくなったのです。そうなれば家族の方に来てもらう以外ありません。しかし、そもそもホームを利用して頂いている現状があるので、家族がいつでも接種日の日程に都合を合わせられるとは限らないのは当然です。あたふたあたふた。かくして何とか職員の努力で八月までに接種を終えることができました。今後、ブースター接種が必要ということで、今後三回目が始まるようですが…。
 例のアベノマスクに始まり、朝令暮改、場当たり、泥縄の施策に、政府への批判、不信が高まるのは当然です。高齢者介護施設の現場の混乱や試行錯誤の努力など、そのディテールとリアルな苦労を自公政権はおよそ分かってはいません。
 クラスターが発生した介護施設も多く、亡くなった人も少なくありません。高齢者施設でのコロナ対策の大変さをひしひしと感じています。私の勤める施設で感染者が出ていないのは「偶然の幸運」なのだろうと思ってもいます。

団結し問題人事押し返す
 全国どこでも介護施設での人手不足が常態化しています。私の施設もそうです。とりわけ看護職の不足状況にはとても厳しいものがあります。社長に談判し看護職員を増やすよう要求して募集をかけてもらっても、まず人が集まりません。ようやく新しい人が面接に来てホッとしていたところ、夜勤があると「子どもを抱えていては勤められないので無理です」と断られるケースがしばしば。給与の待遇は大都市と比べれば大差がありますが、地域では平均よりやや高め。それでもミスマッチ。個別の施設では打開できないさまざま労働事情に直面もします。
 それでも介護職の方はまま新しく就職してくる仲間がいます。介護福祉士の資格を持っていたりいなかったりいろいろです。冒頭に触れたように、会社は急速に大きくなったので、人材を育てるシステムはなく、それぞれの現場任せです。そんな次第で、いくらか経験のある私に、言わば指導というか、アシスタントというか、アドバイザーというか、そんな役割が自然に回ってきます。
 年齢柄、そうした役割は仕方ないのですが、自分の業務をこなしながらのアシスタントですから、これがまた大変なのです。新人もまさに千差万別で、苦労の連続です。ようやく軌道に乗ってきたなあと思ったら、「家庭の事情で辞めます」ということもしばしばで、ガックリです。
 そんな折も折、社長の親類が私の現場事業所の責任者になるという内示が来ました。現場の一同はビックリです。というのも、彼はこの一年私たちの現場にいて、さんざんの評判だった人物なのです。会社のいくつかの事業所を回ってきて、苦労と経験を積み、その上で責任者に抜擢というなら理解できないでもないのですが、責任者としてのマナーというか労務管理能力というか、およそ育っていないのです。部下職員を、施設利用者がいる目の前で叱責することもしばしば。利用者からも怖いとの評判がありました。事実、叱責などが原因で職場を「休職」した仲間も出ました。
 そこで、この問題をどうするか、現在の責任者も含め職場の一同が集まり懇談する内密の機会を設けました。無論かの人物は除外です。そこでは衆議一決、社長に内示を「時期尚早」として撤回を求めることになりました。談判して受け入れられない場合、私的には労働組合の結成も選択肢に構想しました。
 いよいよ社長との懇談日。事業所責任者も含めた職員一同、いつもとは違うやや血色を変えた雰囲気に気圧されたのか、社長は皆の発言を聞きつつ、おもむろに「内示を延期する」と言明しました。
 いつもの業務だけでも人手不足で忙しく、さらにコロナ感染拡大が加わり気の抜けない日々が続いているのに、それに加えて職員のモチベーションを削ぎ取るような役職者が上に立つのではたまりません。退職者が次々に出るのは明らかで、最悪の事態は何とか避けることができました。職員の結束が事態を変えさせ、職場を守ったのです。とりあえずの一歩前進に私もほっとしました。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2021