ホーム党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2021年9月25日号 6面・通信・投稿

「45歳定年制」提言に怒り

残りの人生は自己責任?

埼玉県・杉山 和貴

 経済同友会の「夏季セミナー二〇二一」が九月九日にオンラインで開催されたが、その際にサントリーホールディングス(HD)の新浪社長が「成長産業への人材移動が必要。企業の新陳代謝を高めるため、定年退職を四十五歳に引き下げる。個人が会社に頼らない仕組みが必要。今は、転職のチャンスは十分にあり、『四十五歳定年制』にすれば、自分の人生を自分で考えるようになり、三十歳代・二十歳代は勉強するようになる」と提言した。またロッテHDの玉塚社長も「人材の流動化を支持したい。五十〜七十歳代で起業する人が出てこないと、社会保障制度はもたない。今後シニアの起業を後押しする仕組みづくりを本気で取り組む必要がある」と賛同の声をあげ、物議を呼んでいる。
 この報道を見て、友人から怒りの電話があった。
 友人Aは現在コープ(生協)に勤務、店長をしている。来年には定年を迎え、正社員からエルダー社員(パート契約)となり、役職を外れ給料も半分となる。子供は大学生と高校生の二人で、まだまだ教育費がかさむ時期だ。
 Aは「自分は大学を出てコープに入り、結婚と子育てをし、三十年ローンで家を購入し、ここまで働いてきた。四十五歳定年制の話には非常に驚き怒りを覚えた。働いて家族を守り生活を維持していくのは大変なことだ。四十歳代と言えば給料も上がるが支出も大幅に増え家計的には苦しい時期で、四十五歳で定年などあり得ない。『企業が生き残り繁栄すればいい。働いて企業に貢献してきた労働者とその家族の人生や生活など知ったことではない。定年後は自己責任でやれ』という言い草だ。息子たちが働き盛りになった時、日本の企業は存続するのか。ほとんどの人は暮らしていけなくなる。四十五歳定年制になったら日本に未来はない」と声を荒げて語っていた。
 小泉・竹中が口火を切り、歴代政権が新自由主義で推し進めた「構造改革・規制緩和」の下、多くの産業で正規雇用労働者がリストラで職場を追われ、欠員をパート・派遣・アルバイト等の非正規労働者に置き換えてきた。
 企業の都合でいいように切り捨てられる非正規雇用を大量に生み出した結果、安い賃金でこき使われ、自分だけが食べていくのに精いっぱいで、とても結婚・出産・子育てもできない社会となり、少子化等の社会問題を引き起こしている。
 安い給料の中から安くない税金・社会保険料を徴収される二十歳代。給料が上がるが子育て・教育資金、住宅ローンと支払いに追われる三十歳代。さらにこれらを支払いながら「そろそろ老後の貯蓄も」と出費がかさむ四十、五十歳代。どの年代も生活に余裕はなく、共稼ぎで家計をやり繰りしている。
 新浪らが提言した「四十五歳定年」の後は、会社に頼ることなく、それまでに自分でスキルを身につけ転職するか、さもなければ自分で起業して生きていけ、というのだが、それができるのは、一握りの人に限られるだろう。
 新浪は「チャンスは十分ある」というが、コロナ禍でますます再就職が厳しい情勢の中、四十五歳定年制で社会に放り出される労働者の多くが、労働条件を下げ、また非正規雇用で賃金も半減するような仕事へ再就職するのが目に見えている。
 若いうちは低賃金でこき使い、企業を支える中核となり給料が上がる四十歳代は、一部選別した以外はお払い箱にする。資本家にとって労働者はまさに生きている機械で、その時の都合でとっかえひっかえできる部品にすぎない、という意識丸出しだ。
 今回のセミナーのテーマは「日本が三流国に落ちていかないよう、どう変わるべきか?」だが、新自由主義の論理で、労働者を人間として扱わず、資本の儲(もう)け至上主義でクビ首切り・ポイ捨てすることこそ、日本が三流国へ転落する道しるべということだ。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2021