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労働新聞 2021年9月5日号 6面・通信・投稿

学生が「図書館の自由守ろう」
と署名活動

法政大学図書館・利用履歴保存
サービスに異議/「有志」2人に聞く

 法政大学図書館は学生など利用者の貸し出し・返却履歴を保存し、利用者が照会できる「利用履歴保存サービス」(注)の導入を二〇二二年三月に予定している。このサービスは全国の自治体でも導入が進んでいるが、図書の利用履歴は利用者の思想・信条を類推でき、きわめて慎重な取り扱いが求められる。だが、札幌市と周辺自治体にある公立図書館と大学図書館において、警察が令状なしに図書館に照会を求め、いくつかの図書館が応じたことが明らかになっている。日本図書館協会の「図書館の自由宣言」では「利用者の読書事実を外部に漏らさない」と謳われており、その精神は守らなければいけない。法政大学では学生有志によって、「利用履歴保存サービス」の導入に反対する署名活動が行われた(第一次は八百五十筆、第二次は千百二筆)。この活動などについて、「有志」代表の市谷亮さん、メンバーの玉川仁志さん(共に仮名)に聞いた。(文責・編集部)


一方的に進める大学の姿勢に憤り

ーー本日はありがとうございます。まず、簡単に自己紹介をお願いします。

(市谷)私は「法政大学図書館の自由を守る有志」の代表をしています。法学部通信教育部三年生で、いわゆる社会人学生です。別の大学を卒業しましたが、働きながらまた勉強しようと思い入学しました。

(玉川)法学部一年生の玉川です。よろしくお願いします。

ーー署名活動に取り組んだ経過や思いなどをお聞かせください。

(市谷)今回の図書館の貸し出し・返却履歴の問題については「朝日新聞」や「法政大学新聞」の報道で初めて知りました。
 大学は学内の情報についてはメールやホームページなどで情報公開するのが普通ですが、この問題に関しては一切ありませんでした。

(玉川)はい、なかったですね。私も報道で初めて知りました。

(市谷)私たちは日常的には社会問題などについて勉強会などをしています。そのなかでこの問題について話題になりました。人為ミスやサイバー攻撃による情報漏えいなど危険な問題を多くはらんでいます。また、大学図書館側が利用履歴について「警察に提供することもある」と発言したと聞いています。やはり、これは個人情報の保護の観点、そして図書館の自由に関わる重要な問題であり、導入には反対という考えで一致しました。  併せて、とくにこんな大事な問題を学生に周知しないで、まるで隠してやろうという大学の姿勢は許せないと思いましたね。
 そこで、五人の「有志」という形で導入反対の署名活動を呼びかけたというのが大まかな経緯です。

ーー反応はいかかでしたか。

(市谷)いくつかのメディアがこの問題を取り上げた結果、日本図書館協会や、全国の図書館関係者からの反応は大きかったですね。また大学のOB・OGからも反応がありました。
 一方で、現役学生や教職員からの反応は弱かったというのが正直なところです。「有志」の他のメンバーが同級生にこの話題を振っても、特に問題だとは思っていないという反応だったようです。むしろ「便利になるからいいのでは」という感じですね。
 コロナ禍で対面授業も少なくなって、同級生など学生への働きかけもなかなかできなかったのですが、割とリベラルな立場からツイッターなどで発言している先生もいるので、協力が仰げるのではないかと思い、メッセージなどを送ったりもしました。ただ、公然と「反対」と表明した先生はいませんでした。
 例えば昨年まで総長を務めていた田中優子さんはさまざまな社会問題についてリベラルな論陣を張っていましたが、当時から学内において学生などから意見が言いやすい風土があったかというと、それは別だという印象を持っています。
 法政大学では以前から学内の運動に対して、田中総長時代から当局が圧力を加えるようなこともありました。

(玉川)そうですね。先ほど市谷さんが言ったように、法政大学では以前ならタテカンとかビラの配布なども認められていましたが、今は当局から排除されるので、なかなか学内で声を上げるのは難しいという感じです。

(市谷)第一回目の署名提出が六月七日で、二回目の提出が七月三十日でした。二回目の提出からすでに約一カ月経ちますが、現時点で何ら大学から回答は届いていません。
 そこで、今、学則上の規定に基づいた情報開示請求をしています。学部長会議の議事録を開示させることで今回のことがどういう形で検討されたのかということと、署名提出を受けて作成されたであろう文書、この二点についての開示請求です。開示されることで、署名を受け、現総長や図書館長がこれに対応する文書を作成したのかどうかというのが分かるのではないか思いました。たとえ、「不開示」となったとしても、文書自体が作成されたことは分かるかもしれません。いずれにしても、開示、不開示の結果、また開示されればその内容については私たちからも公開したいと思っています。(*その後、八月二十六日付けで大学側から「法人文書 開示・不開示決定通知書」が届いた。そのなかで「不開示」とされたのは「『法政大学図書館への利用履歴保存サービス導入に反対し図書館の自由の尊重を求める署名』について、提出を受けて作成された一切の文書」とされた。そして、「不開示の理由」として「請求のあった法人文書に該当する文書は作成しておらず、保有していないため」と述べているー編集部)
 また八月一日には日本図書館協会で「図書館の自由委員会」の委員長を務める西河内靖泰さんを招いて、オンライン形式で報告集会を開きました。

権利守る不断の取り組みが重要

ーー今回の取り組みを通じて感じたことがあれば教えてください。

(市谷)特に不満なのは、大学当局が誠実な対応をしない点です。署名提出の際における電話による対応一つとってみても、最初の段階では丁寧な対応でしたが、二回目の提出のときはすごくぶっきらぼうな対応をされたと受け取りました。
 今の日本、「民主主義社会」と言われていますが、自分たち市民、学生が自分たちの権利などを不断に守っていくような行動がないと、政府も、そして大学当局も市民、学生の権利をどんどん狭めていくものだということを今回の運動に取り組んで強く感じた次第です。

(玉川)私ももう少し、大学側には誠実であってもらいたいと思いますね。都合の悪い情報を公開するのが民主主義の基本だと思うので、キチンとした説明責任を果たしてほしいですね。
 この問題が表面化するまで、「図書館の自由」などについて正直関心はありませんでした。この問題が起きて、個人情報の保護の重要性など、関連する本などを読んで、いろいろな問題がつながっているということを強く感じました。こうした視点を持ちながら、大学で学び続けることが大事だと思っています。

(市谷)昨年、法政大学で学費の引き下げを求める署名活動がありました。二つのグループが取り組んだものでしたが、そのうちの一つは私たちと同じようにオンラインで署名を募って、千五百人以上も集まりましたが、大学当局は何ら積極的な対応をしませんでした。少なくとも、署名活動に取り組んだ学生と対面して話を聞くのは最低限あるべき姿勢ではないでしょうか。法政大学はその憲章において、「自由と進歩」をうたっているのですから。
 特にこのコロナ禍で学費や生活面などの不安など学生をめぐる状況も悪くなっているなかで、大学はより学生に誠実に向き合わないといけないと思います。

ーーコロナ禍が学生生活を直撃しています。オンライン授業などで通学できず孤立する学生の存在、また依然として高い学費が学生にのしかかっています。同じ学生の仲間に伝えたいことはあるでしょうか。

(市谷)学内の問題や学外のさまざまな社会問題なども自分事としてとらえてほしいなと思います。
 みんなが自分事として物事を考えないと、どんどん悪い方向に行ってしまう社会です。大学でも都合のいいように学費が上げられ、学内の活動が締め付けられてしまいます。
 ちょっと話が大きくなりますが、もし戦争になれば最初に戦地に行かされるのは私たち若い世代です。そんなことにも目を向けてもらえればと思います。

(玉川)とにかく学内、学外問わず、社会的な問題に興味をもってほしいですね。よく「常識を疑え」ということが言われますが、一見もっともらしいことについても、「本当にこれでいいのか」といったん立ち止まって考えてほしい。
 今はSNSなどの手段もあります。地球温暖化などの環境問題について取り組む学生の動きなど、一つひとつの課題について積極的に取り組む動きが目立ってきているように思います。

(市谷)二〇一五年九月に安保法制に反対するデモや集会があり、自分も参加しました。今、玉川さんが言ったように、当時、SNSなどを駆使しながら、シールズ(SEALDs)が行動を呼びかけ、それに一定の組織力をもった従来の市民運動が合流して、大きな盛り上がりを見せました。
 一方でSNSだけに偏重するような運動も危ういとも感じます。学生なら学内、市民であれば職場や地域など足場をつくった上での社会運動も大事だと思います。

みんな、仲間だ!

ーー長時間、ありがとうございました。最後にそれぞれの将来の希望、そして、「労働新聞」読者に一言メッセージをお願いします。

(玉川)将来メディアの仕事に携わりたい希望をもっています。今はメディアと権力との関係について興味があります。最近の菅首相の記者会見などが「原稿朗読会」とも揶揄されていますが、メディアと権力との関係がどうしてこんな状態になってしまったのかと自分なりに追求しています。
 皆さんにはいっしょにがんばろうと言いたいですね。仲間だと思っているので。
(市谷)特に今、労働者は非常に弱い立場に置かれていると思うんです。大学でも経営に関わる一部の幹部職員は別にして、とくに非常勤講師や、一般職員など多くはモノがいえないし、労働環境も決してよくないということが、学生の立場から見ても分かります。
 私たち学生からも非常勤職員などにも働きかけて、繋がりながらいっしょに当局に要求できるような活動ができればいいですね。

ーーありがとうございました。ともにがんばりましょう。

(注)法政大学図書館は当初、利用者が希望しない限り履歴が保存される「オプトアウト方式」の導入を検討していたが、複数の教授会が懸念示した結果、希望者のみ履歴保存する「オプトイン方式」の導入を計画している。


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