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労働新聞 2021年4月25日号 8面・通信・投稿

イカナゴ漁から海を考える

国に「海の安全」任せられぬ

兵庫県 井上 順也

 時期はとっくに過ぎてしまいましたが、私の地元である兵庫県では、例年二月末〜三月初旬に「イカナゴ漁」が解禁されます。一九七〇年以来、四万トン弱で増減してきた漁獲量が、二〇〇四年以降は一万トン程度で推移して、二〇一七年年以降は二千トンへと減少していました。そして今年はとうとう百四十七トンにまでなってしまったと報道されていました。毎年の風物詩である、商店街の魚屋の前にできるイカナゴ目当ての買い物客の行列が、ついに今年はなくなってしまいました。  この減少について、県は一昨年まで調査を行い、「海がきれいになり過ぎたのが不漁の原因」だと言っています。
 大阪湾や播磨灘を含む瀬戸内海は、かつて工業廃水に含まれた窒素やリンが植物プランクトンの栄養源となり、赤潮の発生に悩まされていました。しかし、一九七三年に瀬戸内海環境保全特別措置法が成立し、排水基準の強化により窒素やリンが減ってきれいになった海では、植物プランクトンが激減、植物プランクトンをエサにしていた動物プランクトンも減少、そして動物プランクトンを食べる魚も減るという負のサイクルが発生した、とのことです。
 排水が浄化された一方で、都市部の河川はコンクリートで固められていますので、昔のように陸上から栄養分が流れ込むことが少なくなったようです。この海の貧栄養化はイカナゴだけでなく養殖ノリの色落ちなどにも影響しているようです。きれいにすれば問題解決とならないとは…なかなか海の問題は難しいと感じました。
 ちょうとそんなことを思っていた先日、東京大学の鈴木宣弘先生が行ったZOOM講演会に参加しました。そこで鈴木先生は貿易自由化のリスクの一つに、食料輸入とともに窒素過剰の問題がある」と言っていました。「日本の農地で適正に循環できる窒素の限界は百二十四万トンなのに、すでにその二倍近い二百三十八万トンの食料由来の窒素が環境に排出されている。窒素は、ひとたび水に入り込むと取り除くのは膨大な費用をかけても技術的に困難。下水道処理というのは、猛毒のアンモニアを硝酸態窒素に変換し、その大半は環境に放出されており、けっして硝酸態窒素を取り除いているわけではない」とのことでした。
 一部で海の浄化が進んだ一方で、硝酸態窒素によって土壌や地下水などの環境が汚染されている、ということです。地球温暖化なども問題も含めて、海の環境問題は山積しているようですね。
 そうこうしていたら、先日の福島原発の汚染水を海へ放出することを国が決定しました。漁業者のみならず近隣国からも懸念や批判が出ていますが、テレビでは自民党の下村政調会長が「中国や韓国に批判される筋合いはまったくない」などとうそぶき、さらに原子力規制委員会の田中元委員長は、「科学的根拠」として「放出汚染水」の「人体への影響はない」と強調してました。同じ海を共有する隣国からの批判は当然だし、自然界への影響についてはまったく無視・黙殺の態度にも腹立たしい思いでした。なお、同じ番組で水産庁の小松元漁場資源課長が「漁獲量変遷データを開示して海の生態系への悪影響を調査するべき」と真っ当な問題提起をしていたのは唯一の救いでした。
 どれだけ薄めても、汚染水の中にある放射性物質であるトリチウムの総量は減りませんし、この汚染水には他の放射性物質が除去し切れていない事実もあります。しかも、原発事故を起こし、まともに被害者に補償もせず、その後も問題ばかり起こしている東電がその処理をするというのですから、「安全だ」などと言われてもまったく信用できません。福島の海に限らず、日本中、アジア太平洋全体の生物体系に悪影響を与えること必至でしょう。
 考えてみると、「原発立地」は過疎化が進む(過疎化を進めた)日本海沿岸や東シナ海、福島をはじめとした太平洋沿岸ばかりです。もし仮に人体への影響がないなどと言っても漁業者は物心ともに被害をうける。さらに海に生殖している生物の生態系への影響の観点から見ると、世界中の「海」を汚すことになります。
 イカナゴ不漁もそうですが、長期的視野を欠いた産業活動の結果が影響しているようにしか思えません。海を含めた環境の問題を、目先のことしか考えず、ウソばかり言って取り繕う企業家・政治家らにまかせてはおれないとつくづく思います。


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