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労働新聞 2021年4月5日号 8面・通信・投稿

世界農業遺産の里山里海守れ

風力発電は要らない

石川県・山本 晃一

 昨年八月末、地元紙一面に「能登 風力発電計画が急増」という記事が大きく掲載された。現在、能登地方で風力発電建設のための環協影響評価(アセスメント)に入っているのは十二事業所百七十六基あり、既存七十四基の倍以上になる。風車のサイズも、最大で高さが二百メートル、ローター(風車の羽)の直径は最大百五十八メートルにもなるという、とてつもない大きさの計画が提示されている。  しかも、そのほとんどが輪島市以南の中能登地区の五市町で、市町境で多くは尾根沿いの山中に建設が予定されている。七尾市のある地区では、四事業所五十九基、最大高さ百九十メートルの巨大風力発電建設計画が地区を取り囲むように計画されている。
 昨年六月に七尾市議会で取り上げられて以来、この三月議会でも関係する自治体議会ではほとんどの議会の一般質問等で取り上げてられている。県議会には地元住民からの請願も出され、委員会でも質疑が交わされている。
 こうした質問や請願では巨大風力発電の問題点が指摘されている。
 まず、建設された地域では、風車から出る低周波の騒音で眠れない、頭痛・耳鳴り・めまい・動悸(どうき)・イライラ・集中力低下、記憶力低下などの被害が住民に出ていることだ。私が住む町内でも、すでに稼働している地区の近隣の方からも、同じような被害を聞いたことがある。
 このほかにも、林道工事や本体建設工事で渇水・土石流・洪水が起きるのではないかと心配されている。場所によってはカキの養殖など漁業への影響も言及されている。予定地の多くは急しゅんな地形で、林道の造成や風車の設置場所での大がかりな整地作業が必要となる。毎年各地を襲う集中豪雨を考えると、法面の崩壊や土砂崩れへの懸念は当然だ。
 それではなぜ、北は北海道から南は九州各県で海岸線や丘陵地帯等で、風力発電の空前の建設計画が持ち上がってきているのか。
 「二〇五〇年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする」と宣言した菅政権は、発電に占める再エネの比率を五〇〜〇十%に引き上げることを計画している。この国策ともいえる政策に後押しされ、また二一年度より固定価格買取制度(FIT)から入札制度に切り替える方針が示されるなかで、外資を含む大企業が全国の地方の山間部で巨大風力発電の建設計画を相次いで発表している。
 現地では、地域住民を安心させるためか、当地でも横文字やカタカナの株主が明記されている会社の概要案内が目立つ。案の定、「巨大な外資がついている」と安心する人と、「外資はいざという時の撤退の準備も考慮に入れて、地元での下請け企業をつくって対応している」との疑問をはさむ人がいる。
 私の住む町内でも、すでに稼働している風力発電の風下に住む人のなかには、稼働当初から低周波音に悩まされている人が少なくない。当初は役場にも被害を訴えたが、真っ当な対応をしてくれず、仕方なく企業と個別に対応しているというのが現実だ。企業と個人では力関係が歴然としている。例えば、騒音防止で二重サッシの戸にするにしても、企業は一割しか負担してくれないという。結局弱い人は、あきらめて泣き寝入りとなっている。
 行政によっては、風力発電について建設に異を唱えるなら早く意見を出してほしいと言っている。稼働すれば最低二十年は動かすので、動いてからこんなはずではなかったといっても遅いとアドバイスをする担当者もいたりする。
 「自然再生エネルギー」を名目にし、地方に住む人をあるいは誰かを犠牲にして利益を得ることは許されない。
 風力発電建設の手続上は、まだ時間的な余裕はあるとはいえ、のんびり構えていられない時期にきている。能登でもあちこちで風力発電に対する反対ののろしが上がってきている。
 能登半島の里山里海は一三年、世界農業遺産として国連食糧農業機関(FAO)から認定された。能登半島が、土地利用、農林水産業、食文化、祭礼、工芸、生物多様性などにおいて、里山から里海までが密接につながり、一体不可分となっている地域であることの価値が認められたものだ。
 能登には能登の生きざまがある。人びとの生活と相容れない風力発電は認められない。


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