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労働新聞 2021年2月25日号 8面・通信・投稿

鳥インフル問題に思う

工場化する社会を問う

福岡県・森田 太郎

 世界的にコロナ感染拡大が止まりません。感染者数も一億人を突破し、今でも毎日数十万人ずつ感染者が増えています。国内でも四十万人以上が感染し、毎日千人以上の感染確認が続いています。
 ワクチン接種も始まっており、感染拡大の抑止になることは確かなようですが、これでパンデミックが終息するとみるのはまだ早いようです。
 英「エコノミスト」紙は二月十三日、今後も広く流行するとして「コロナ感染が長期化する一因は、世界の人口七十八億人を守るのに十分なワクチンを生産し、供給するのが至難の業だからだ。他の主要国よりも速いペースで国民へのワクチン接種が進んでいる英国でさえ、五十歳代以上への接種は五月までかかる。しかもワクチンの効果は薄れるため追加接種が必要だ。先進国以外ではまだワクチン接種を開始していない国が八五%に上る。こうした国に住む何十億人もの人が接種を終えるまで、感染拡大は続くだろう。それは二〇二三年までかかりそうだ。もう一つの理由は、ワクチンのおかげで従来型ウイルスの感染や致死率が下がっても、新たな変異ウイルスによって効果が一部帳消しにされているからだ」と、非常に悲観的な見通しを記しています。
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 しかし、ウイルスによる災禍は人間界だけではありません。他の動物でも大変な事態になっています。
 二月十七日の「日経新聞」には、「鳥インフル拡大、首都圏も 二〇年度の殺処分過去最多」という記事が出ていました。
 記事によると、「高病原性鳥インフルエンザが各地で猛威を振るっている。二〇年度は殺処分数が過去最多となり、特に首都圏や四国、九州などで大きな被害が出ている」、今季の鳥インフルは「十五日時点で十七県で被害が確認されている。殺処分された鶏は計九百七十五万羽に達し、これまで最多だった百八十七万羽を大きく上回っている」「鳥インフルが発生した養鶏場内はすべて殺処分となり、半径三キロ圏内にある養鶏場も鶏や卵の持ち出しなどを禁じる移動制限がかけられる。千葉県内のある養鶏農家は『出荷が止まり取引先を失うことにもなりそうで、被害額は数十億円になるのではないか』と話す」「出荷停止となる影響も大きいが、移動制限で鶏肉用に育てるヒナを養鶏農家へ持ち込めない影響も見逃せない。制限が解除されても飼育に時間がかかり、すぐには出荷を再開できない。香川県ではフル稼働の体制が整うまでに数カ月かかる事業者も出てきそうだ」などとして、養鶏農家への支援や自治体の対策などを求めています。
 ヒトに感染する新型コロナでは出入国制限や外出や営業制限などの防疫、隔離、治療、ワクチンなどの対策が行われますが、養鶏場ではわずか数羽が鳥インフルにかかっただけでも数万羽から数十万羽が残酷にも「皆殺し」にされ土に埋められます。
 それでも、鳥は自由に空を飛び交い、渡り鳥はヨーロッパやシベリアなど全世界を行き来していますから、発生したところだけ「殺処分」したからといって鳥インフルエンザを防ぐことはできません。
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 ところで、河井元法相夫妻の買収・公選法違反事件に関連して、吉川元農水相が広島の養鶏会社「アキタフーズ」の元代表(養鶏業界のドンといわれている)から多額の賄賂をもらっていたことが発覚、起訴されました。しかし、これは単なる贈収賄事件としてだけではなく、日本の養鶏業、ひいては農業政策のあり方を深刻に問う問題です。そのことをあらためて考えさせられました。
 というのも、そもそもアキタフーズ元代表は吉川元農水相に現金を渡して何をしようとしていたのでしょうか。報道によれば、@バタリーケージをなくそうという国際基準案の取り下げ、A国税が使われる鶏卵生産者経営安定対策事業(鶏卵価格が低落した場合に、価格差補填を行う鶏卵価格差補填事業と、その際の緊急措置として生産を減らすために採卵鶏を殺して鶏舎を空ければ奨励金がもらえるという成鶏更新・空舎延長事業の二本柱)の拡充、といわれています。
 日本も加盟するOIE(世界動物保健機関)は、一七年から採卵鶏の舎飼システムに関する基準「アニマルウェルフェア(動物福祉)と採卵鶏生産システム」の策定を進めており、これまで各国と内容についてすり合わせてきましたが、そのたびに日本はアニマルウェルフェアのレベルを下げるようにOIEに意見(コメント)を提出してきました。
 日本の採卵養鶏は、バタリーケージという、ワイヤーでできた金網を連ねて鶏を押し込めて飼育する方式です。生産効率を上げるため、ほとんど身動きできないほどの狭い檻のなかで鶏は一生を暮らすことになります。これはブロイラーも同様で、インフル対策ということで窓のない狭い鶏舎の中で過密状態で飼育されています。
 欧州連合(EU)などは、止まり木、巣箱、砂場、平飼いなど、自然に近い福祉的な飼育方式にしています。しかし「工業的」に考えればこの飼育法は採算が悪く、アキタフーズ元代表は反対だったのでしょう。こうした業者の意を受けて(賄賂ももらって)、与党政治家・日本政府はこれを国際的な基準にさせないように画策し続けているのです。
 また、生産性や採算性優先で規模拡大してきた工場的畜産システムの流れを続けることは別の問題も生んでいます。いま食品ロスの問題がさまざまなところから言われていますが、それもその一つでしょう。
 ひとたび鳥インフルに感染したニワトリが出れば、一千万羽もまとめて殺処分せざるを得ないような畜産システムそのものが問われなければならないのではと思います。
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 ひるがえって、ヒトのコロナ感染の問題ですが、大都市ほど感染リスクは高いのは言うまでもありません。狭い土地に押し込められ、高い地代や家賃をとられ、感染の危険を冒しながら電車で通勤し、人混みのなかで仕事をし、暮らしていく。誰にとっての効率、生産性、採算性なのか。大都市の在り方そのものが問われているように思います。
 高い空から鳥たちが、林立するタワーマンションを見下して、ここにも養鶏場がある思っているかも知れません。


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