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労働新聞 2021年2月5日号 8面・通信・投稿

<地域レポート>
北海道の人口減少と札幌一極集中

国の悪政の結果が如実に

北海道・青木 圭

札幌は「人口のダム」?
 昨年末から「北海道新聞」に「札幌集中のリアル」という連載記事が掲載されています。札幌への人口一極集中と北海道全体の急速な人口減少を扱ったものです。その札幌市を含めて北海道全体が急速な人口減少にあることも指摘されています。この記事を参考にして、北海道の現状を私なりに報告したいと思います。
 札幌市には現在、道内全体の三八%を占める百九十七万人が居住しています。全国人口に東京圏が占める割合よりも高く、政令市の中でも五番目に大きな都市です。
 道内の人口ですが、札幌市以外の道内市町村人口は札幌冬季五輪(一九七二年)の頃を境に増加から減少に転じ、七〇年の四百十七万人から二〇二〇年には三百二十四万人に減りました。一方、札幌市の人口は同時期に百一万人から百九十四万人に増えています。直近の一二年〜一九年の八年間を見ると、道内各地から札幌市へ異動した人は約九万五千人、札幌市から東京圏に移動した人は約二万五千人となっていて、札幌市の一極集中は「北海道全体で進む道外への人口流出を防止する『ダム機能』を果たしている」といわれています。これは大阪、名古屋、広島、福岡、仙台など他の政令都市とは違う北海道の大きな特徴ともいえます。
 道内の市町村は、農業や漁業などの地域を支えてきた基幹産業が高齢化や後継者不足で衰退し、結果として自治体の社会的機能が衰えて、進学や就職で外に出る若者だけでなく、病院や介護施設を求めて高齢者も流出しています。札幌市との格差はどんどん広がっています。
 しかし一方、札幌市は「人は増えたのに、札幌五輪時のような活気がまったく感じられない」状況。札幌市内はまた深刻な問題を抱えています。いくつかの現象から見てみます。

高齢化と貧困化進む札幌
 一つは高齢化。高度経済成長期以降、相次ぐ炭鉱閉山で道内各地から流入した世代とその子供世代が次々と六十五歳を超え、さらに高齢者の転入が転出を毎年約二千人も上回って高齢化に拍車をかけています。札幌市もみじ台地区にある「札幌ニュータウン」は一九六八〜八〇年に造成された市内最大のニュータウンですが、現在人口はピーク時の二万六千人からほぼ半減し、高齢化率は四八・七%と市内で最も高い地域です。ニュータウンは札幌市内に四十九カ所ありますが、同様に超高齢化が進んでいます。ある推計では、札幌市の高齢化率は二〇四五年には政令市内で神戸市と同率一位の約四〇%となると予測されています。
 もう一つは、札幌市の一八年の合計特殊出生率は政令市最低の一・一四で、東京(一・二〇)よりも低くなっています。その大きな原因は結婚適齢期の未婚女性が多いことです。市内の三十〜三十四歳の女性の未婚率は約四二%で、全国平均より七・二ポイントも高いとのことです。若い男性が道外に流出する割合が高く、また一方でサービス業など第三次産業が約九割という偏った市内の産業構造があるので女性の比率が高く、男女の人口バランスが崩れていることが原因といわれています。また、非正規労働者の割合も男女とも全国平均を上回っています。低賃金で不安定な雇用環境が未婚率の高さに拍車をかけているわけです。
 また、札幌市の生活保護率は政令市の中でも大阪市に次いで全国で二番目に高いのですが、現在のコロナ禍のなかで非正規労働者、特に女性の雇用破壊がじわじわと進み、札幌市の貧困化はいっそう深刻化しています。

国策で地方産業が衰退
 北海道の歴史を振り返ると、戦前までは札幌以外の函館、室蘭、小樽、旭川、帯広、釧路など基幹産業を持つ地方都市の人口は札幌と肩を並べていましたが、配電統制令に基づく電力四社統合と北海道配電(現北海道電力)の設立や、国の「一県一紙」方針によるどうな道内十一紙の「北海道新聞」への統合など、戦時統制の流れのなかでさまざまな中枢機能が札幌市に集中されました。
 戦前まで道内最大都市として発展した函館市は、札幌市にその座を明け渡しました。室蘭市は、「鉄の街」として朝鮮戦争時には特需により飛躍的に生産が伸び人口も増えましたが、オイルショック以降の構造不況のなかで大規模な人員削減が行われ人口も減りました。釧路市は戦後、水産や石炭、製紙業の発展で人口が急増しましたが、二百カイリ水域設定(一九七七年)などで基幹産業が衰え、八〇年代から年約二千人ほどの人口減少が続いています。最近では千人規模の日本製紙釧路工場の撤退が明らかになっています。
 そして、三井美唄炭鉱閉山(六三年)からはじまる閉山ラッシュで産炭地六市(夕張、美唄、芦別、赤平、三笠、歌志内)の離職者が札幌市に流入した数は累計約十万人にも及びます。
 さらに七〇年に始まった国の減反政策は農民の離農を促し、農地を売って札幌でのアパート経営をする農家が増えたとのことです。大規模化も、農業従事者減少に拍車をかけました。
 これら道地方都市の基幹産業は、エネルギー政策転換、減反・生産調整、国鉄民営化などの国策によって絶えず翻弄され、衰退を余儀なくされたのです。
 さらに、夕張が典型ですが、バブル期のレジャー施設などの再開発で三井などの大資本はさんざん地域を食い物にし、その後のバブル破綻のツケは自治体と住民に押し付けられました。九〇年代には北海道拓殖銀行の破綻(九七年)で地域経済の疲弊に拍車がかかりました。
 この年を境に北海道全体の人口は減少に向かいます。JR北海道の各線区は、夕張支線、札沼線、日高線などで維持が困難になり、次々と廃線になろうとしています。この期間の北海道政は中央政府頼みで、分割民営化の責任を国にとらせることもせず、産業衰退と人口減少になすすべがありませんでした。そしてサービス産業、特に観光・インバウンド頼みのみの政策では道民の所得は増えません。こんにちのコロナ禍がその脆弱さを浮き彫りにしています。
 このように、道内各地域の人口流出を札幌市が受け止める形で一極集中が進んだというのが実態です。道内の人口減少は加速し、過疎化で多くが自治体として存続を危ぶまれ、札幌市では高齢化と貧困化が進んでいます。

菅政権の構想は時代錯誤
 北海道の人口は二〇二〇年の五百二十一万人から三十年後の二〇五〇年には四百万人に大激減するとみられています。
 今回の連載記事とこのレポートを書きながら、あらためて人口問題を通じて北海道の現状の深刻さを感じています。このままであればいっそうの衰退は免れないでしょう。
 政府の「地方創生」は、結局は自治体間で競争させて人口を奪い合う、しかも事業計画は市町村まかせ、財源は半分しか手当しないというものでした。しかし問題はもっと構造的で、このような小手先の対応でなんとかなるものではないことは明らかです。いま菅政権が進めようとしている政令市のスーパーシティー、国際金融都市や特別自治市などの構想は時代錯誤そのものです。
 北海道の五百二十万道民がどうやって飯を食い、必要な行政サービスを受けて、暮らしていけるのか、国政も道政も誰のための政治だったのか。それが問われています。
 重要な基幹産業を次々に衰退させてきたこれまでの政治の在り方自身を転換しなければならないと強く思います。


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