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労働新聞 2020年9月25日号 8面・通信・投稿

コロナ禍のひずみ集中

医療・介護の現場は限界

東京・沢田 和美

 私は訪問医療の看護師として、ケアマネジャーとして働き、また介護福祉系労働組合の委員長をしています。日々の仕事や活動のなかで、新型コロナウイルスの感染拡大によって現場の状況は過酷さを増し、医療や介護の崩壊が身近に迫っていることを痛感しています。

心身疲弊でもうギリギリ
 たとえば先日、以前いっしょに働いていた訪問看護師の友人から「利用者の奥さんがPCR検査陽性となり、私は濃厚接触者で、検査しなくてはならなくなった」というメッセージがきました。検査は三日後となり、結果が出るまでにさらに三〜四日かかるということでした。たとえ陰性になっても二週間は様子見のために休暇を取らざるを得ません。出社することも許されない彼女は、自分の健康よりも職場の仲間を心配していました。
 というのも、急に休みとなった看護師やヘルパーの担当していたスケジュールは他の職員に振らなくてはいけませんが、既にギリギリの職員スケジュールにどう組み込むか、大変だからです。
 終末期を迎えた人や医療処置が必要な人の自宅にはどうしても訪問しなくてはなりません。また最近はコロナの影響で病院では家族の面会もできないため、自宅で終末期を過ごすターミナルケアが増えています。こうしたことから、通常は一日四件から五件のところ、昼休みなしで休憩時間も取らず何とか六件をこなすこともあります。職場では就労時間は昨年から午後五時までとなりましたが、実際には今も六時以降の訪問が増えています。  心身が限界に近い状態で訪問し、「いつ自分が感染者になるか」との不安も加わり、やり場のない憤りを感じている人が少なくありません。

国は関係者への検査拡大を
 国や自治体には、まずは医療関係者や保育士・教職員・介護労働者に定期的なPCR検査の実施をしてもらいたいと思います。
 感染すれば、病気を持っている利用者に感染させる危険性があり、常にビクビクしている状態です。せめて検査して陰性であるという実感が欲しいと思います。
 世田谷区では既にいつでもどこでも何回でも検査できるようになりました。世田谷ができて他ができないというのはおかしな話です。これは本来であれば国や都がやるべきことと思います。
 また十月からはインフルエンザの予防接種が始まります。都は九月三日に六十五歳以上のインフルエンザ予防接種の自己負担を無料とする予算を計上しました。コロナとインフルエンザが同時に感染拡大すれば、医療や介護崩壊は免れません。六十五歳以上だけでなく、保育や介護従事者にもインフルエンザワクチンの予防接種の補助を拡大する必要があると思います。
 安倍首相は退陣しましたが、その表明と同時に発表した新型コロナウイルス感染症対策パッケージでは、二〇二一年前半までに国民全員分のワクチン確保をめざす方針を表明し、対策本部後の臨時閣議で二〇年度第二次補正予算の予備費を活用することを決定しました。今後、新型コロナウイルスワクチンの予防接種が始まった場合、持病を抱えた区民や高齢者、乳幼児、妊婦はもちろん、福祉関係者への優先接種や、接種費用の助成も国の責任として行うべきだと思います。

労働者の処遇改善は不可欠
 コロナ受け入れの感染症病院が赤字化しているなかで、ある私立の大学病院では職員へのボーナスカットが看護師の不満をあおり社会問題化しました。
 私の組合員の事業所でも同様のことがありました。昨年のヘルパー不足に伴った事業所の減収のため、今年は昇給なし、夏期ボーナス〇・五カ月分のカットです。「仕方がない」と思わされやむなく承諾しましたが、コロナ禍のなかで身を粉にして働いたにもかかわらず賃金がカットされたことにはショックを感じています。  また、介護現場の人材不足解決に必要なことは、離職対策と介護職に対するイメージの回復や賃金などの処遇改善です。
 介護保険制度は「介護の社会化」を理念に〇〇年四月に始まり、二十年が経過しました。三年ごとに改定される介護報酬も一八年の改定まで六回のうち三回はマイナス改定であり、抑制ぶりが顕著となっています。この間処遇改善加算が組み入れられましたが、ヘルパーの給与は一五年度の介護報酬実態調査では、基本給は月額一万三千円増にとどまっています。介護現場で働く非正規・パート労働者の時給は制度開始の〇〇年からほとんど横ばいの状況です。給与面の低さからも、コロナ以前から慢性的な人手不足に悩まされています。その対応策として、人材派遣・紹介会社からの人材確保が常態化しつつあり、派遣会社などに支払う派遣料も事業所の経営を圧迫しています。
 外国人労働者にも期待していましたが、今回のコロナ感染症拡大に伴い人材不足の解決にならない状況が続いています。要介護・要支援高齢者や障害者への介護人材不足がこれ以上進まないよう、離職防止、新規介護労働者の増加対策に真剣に取り組まなくてはなりません。
 障害や病気を抱えても安心し生活できる社会保障制度の充実が必要です。制度改善への政策の見直しが必要です。

都立病院独法化に反対
 こうした中、小池都知事は都立病院の独立行政法人化に向けた予算を今年三月に決定しました。
 しかし、救急医療や高度医療や感染症対策を担う点で都立病院の役割は大きく、安心できるものです。
 以前よくあったことは、緊急時救急車を呼んでも、受け入れ時に年齢や障害、難病、医療機器を付けている状態によって受け入れを拒否されるという差別問題に何度も遭遇しています。スムーズにいかない原因は、高齢であれば入院が長引くことや、介護に通常より手間がかかるという理由だと思います。一時間たっても入院先が見つからない、助かる命も助からないという「命の選別」は誰もが望まないことです。
 都立病院独法化は医療崩壊に拍車をかけることを危惧しています。この問題はこれからも注視し対応していきたいと思っています。


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