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労働新聞 2020年5月15日号 通信・投稿

福祉現場の感染対策、
政治は無関心

「三密」避けられず置き去りに

障害者施設勤務・板橋 珠樹

 私は首都圏にある障害者のデイケア施設・NPOに勤務しています。私自身は健常者ですが、この施設を立ち上げた友人Fさんは、かなり重度の脳性麻痺の障害を持ちながらがんばっている人です。今回の新型コロナウイルス感染問題でも苦労しながら施設を閉じずに運営しています。
 市内にはたくさんの障害者施設があり、連絡協議会もつくっていて、そこでアンケート調査を行ったのですが、そこには以下のようなことが書かれていました。
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 いちばんの不安は、実際に施設内で職員を含め感染者が発生した場合の対処と、感染して軽度の場合の居室での隔離も難しい利用者の支援についてです。これまでもインフルエンザや、胃腸炎等の感染症が発生した際にはその都度不安が付きまといながらの支援でした。しかし、今回の世界的な感染症については危険意識のレベルが違います。世の中では医療崩壊がささやかれ、特に当施設のような知的障害を持つ利用者については通常時でも入院などの受け入れが難しいために、コロナに感染し重症化した際、保健所や行政に連絡して実際に的確な指示がもらえるのか、一同とても不安を抱えています。
 今回、緊急事態宣言が発令された際も、医療施設と同様に私たちの施設も休業をすることもできず、短期入所や通所の自粛を要請する程度で、施設全体からみれば外部からの出入により感染のリスクは多少軽減できたものの、大幅な自粛にはなりません。またこのような状況下で、支援を行う現場職員も安心が得られず、日に日に疲弊しています。体調不良がみられても簡単にPCR検査もできない状況もあり、家族と同居する職員は感染が認められれば家庭に戻ることもできません。報道によると、感染しても軽度であれば入院できず、家にも戻れず車中で生活されているような人もいると聞きます。メディアで報道されているような医療関係従事者の疲弊した様子に、われわれより医療関係の従事者はもっと大変な状況なのだ、と思うよりほかないような状況です。
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 これは、施設で働いている人すべてに共通する悩みです。何が不安か、三つの問題があります。第一に、感染者が出ることを防ぐ体制ができているのかという問題。またこのアンケートで述べられている、感染者が出た時は具体的にどう行動すればいいのかという問題。さらに不安を抱えながら働いている労働者にかかわる問題です。
 第一の感染防止について、政府は「緊急事態宣言」にあたって打ち出した経済対策で「マスクについては月七億枚を超える供給を確保…マスクなどを介護施設、障害者福祉施設、保育所・学校などに配布」と述べたことから、施設には豊富に配られている印象を持つ人もいると思いますが、実際は、国から「アベノマスク」が一人当たり二枚づつ配られた後、もう一回もっと少ない数が送られてきただけです。消毒液に関しては一度一リットル届いた後、何の音沙汰もありません。皆不安になって市役所にマスクの在庫がないか問い合わせると、「ありません」との回答でした。また、学校閉鎖に伴い障害児学級が通う学童保育所は普段より多くの人が利用するため、施設のスペースが狭くなり、「三密」状態で食事をせざるをえない状態です。何もかも感染防止の基礎の基礎ができていない状態です。
 第二の問題、もし感染者が出た時の対応ですが、アンケートの結果では「非常時マニュアル」が作成されている所は三〇%未満でした。私の施設でも、万一感染者が出た時は障害者問題に理解のある近隣市の病院に駆け込む算段だったのですが、院内感染が出たためこの病院が閉鎖になってしまい、今は無方針状態です。ただ感染が出ないことを祈るばかりです。
 第三の労働者の問題ですが、大きな不安を抱えながら毎日勤務していることはお分かりいただけると思います。そもそも私の施設では、Fさんや私のように「施設を閉じたら途方に暮れる利用者と家族がいるのだから通う人がいる限りは続けよう」という人と「感染するのが嫌だから勤務しない」という人とで半々に分かれてしまいました。一方、利用者も「家にいた方が安心だ」という人と自宅ではケアができないから通うという人に分かれました。
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 感染や安全の問題以外の問題もあります。市からの財政支援は利用者数に応じて給料が支給されることになっているので、施設に入ってくるおカネが減ってしまうのではないか、それでは施設が運営できなくなる、という心配もあります。
 市と交渉し、とりあえず今までどおりの給料は保証されることになりました。でもこれが何カ月も長引いたらどうなるか。コロナ禍が終息したら、今度は「財政難だから」と障害者福祉全般の大規模な切り捨てが始まるのではないか。皆そのような不安も抱えながらの毎日です。
 こんな心配な時はお互いの連帯感がとても大事ですが、少なくとも行政からは「がんばって」とか「何か困っていることは?」とか、そのような声は一度もかかったことはありません。
 このように書き出すと頭にくることばかりでキリがないのですが、それもこれも東京五輪・パラリンピックを何としても開催したくて、感染者数を少なく見せかけ、出たとこ勝負で責任をごまかし続けている安倍政権のせいだと思うと、さらに頭に血がのぼってしまいます。


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