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労働新聞 2020年3月15日号 通信・投稿

売国農政で弱った農家を
相次ぐ災害が直撃

売上減と経費増に苦しむ花農家

徳島県・花農家 沢田昭二

 私は以前にも、この欄に投稿させてもらいました。大学を卒業してから、親父がやっていた花卉農家を継いで、かれこれ四十年近く仕事を続けてきました。二月頃の一時期を除いて、年がら年中働いて、ほぼ休みなしです。妻ともうすぐ三十歳の長男の三人で専業で営んでいます。五反半のコメ作りもやっています。自宅で食べる以外は集荷していますが、米価は安く経費を引くと事実上マイナスです。収入の大部分はハイビスカスやポインセチアなどの花卉栽培です。
 長男には三十歳になるまでに継ぐかどうか決めてくれと言っています。他にいい仕事はないので本人は決めかねているようですが…。
 一年の仕事のサイクルは、一、二月はハイビスカスの剪定(せんてい)といって、樹木の枝を切り、形を整えたり、風通しよくする作業をします。また三月からバラの出荷時期です。五〜七月は、ハイビスカスの出荷とポインセチアの挿し木。七、八月は芽を出したポインセチアを鉢に植え込みます。八、九月はハイビスカスの挿し木。十一、十二月は主力商品のポインセチアを出荷する。特にクリスマス前はかき入れ時です。
 ハウスの中での仕事は暑くて過酷です。特に夏場の消毒の作業は大変です。熱中症に気を付けながら日々なんとかやっている状況です。

売上げ最盛期の六割以下
経費高騰で農業収入激減

 売上げは一九八〇年代後半のバブルの頃が最盛期で、多い時には五千万円近くありました。しかし今では売上げはその六割、三千万円弱です。バブル時は経費を引いた所得は売上に対して二五%程度ありました。今は売上のうち一五%程度、五百万円ほどにしかなりません。三人で専業で働いていてです。
 花は景気に大きく左右されるので、花農家には景気の動きがよく分かります。リーマン・ショックの時にはお歳暮、クリスマス用のギフトなど、売上がガタンと落ちました「強い農業」という安倍政権になっても売れ行きは減ることはあっても伸びることはありません。
 所得が減ったのは、売上が減った上に、あらゆる経費が上がっているからです。影響が大きいのは資材費、運賃、それに燃料費(ハウスで使うボイラー燃油等)です。まず大きいのは資材費です。ビニールハウスは八棟、広さは全部で三反半、約千坪です。修繕などに使う鉄製品が二〇〇八年の北京五輪頃にぐっと上がって、以降下がらず高止まりです。ビニール製品も上がったままです。アベノミクスの円安で資材費はますます高くなっています。
 最近、大きく上がったのは運賃です。大阪の花市場に運んでもらうのですが、運転手不足などさまざまな理由で二割以上も上がっています。
 ボイラーを焚く燃料(A重油)は、バブルの頃はリッターあたり四十円前後でしたが、〇八年夏に暴騰し百二十五円に、リーマン・ショック後は六十円くらいになりましたが、最近は九十円くらい。年間で約二十キロリットル、百六十万円以上です。燃料も世界の景気動向、中東の情勢が大きく響きます。
 肥料代は一〇%程度上がりました。農薬代も値上げです。資材輸入の商社、メーカー、石油元売り、運送会社などは、円安になれば末端の農家に価格転嫁するなど、為替が変動しても利益はきっちり確保しています。
 安倍政権になって庶民の生活は悪化するばかりです。息子や娘たちの給料や生活ぶりをみればよく分かります。農家の経営・生活も悪化する一方です。環太平洋経済連携協定(TPP)や欧州連合との経済連携協定(日欧EPA)、さらに昨年の日米貿易交渉など、次々と安い農産物を呼び込んています。農家が苦しくなることばかりやっておいて、何が「強い農業」かと怒りが湧いてきます。

ハウス建替え時に離農
県の補助金は今はゼロ

 徳島県内では洋ランを作っている農家がいちばん多かったのですが、十年前に県内には五十軒ほどあった花農家が現在では三十軒ほどになっています。特にここ数年は仲間たちが辞めてしまうことが多くなっています。  花農家も他の農家と同じで四十歳以下はほとんどいません。しかし今、働き盛りの五十歳代の人が六十歳を前にして辞める人が目立っています。その切っ掛けとなるのは古くなったハウスを建て替える時です。売上が伸びないし展望もないのに、また大きな借金をしてがんばるというふうにならないからです。
 ハウスの建て替えには坪当たりで三〜四万円、一反あたりボイラーなどの設備を入れて約一千万円近くかかります。ハウスは二十〜三十年使えますが、今建て替え時期に入っています。
 かつては建て替えに県から二〜三割の補助金がありました。それが削られて、今はいっさいありません。国や県の補助金は新規就農者に手厚くなっています。しかし現役の農家は経営を維持できなくなっていても支援を受けられず、廃業に追い込まれているのです。本末転倒ですね。花農家への補助金は真っ先に切られましたが、今は野菜農家にもほとんど補助がなくなっているようです。仲間のキュウリ農家が言っていました。
 農家は皆、自分の責任で経営しなければならず、市場との関係で生産組合のようなものはあっても、要望をまとめて国、県に要請する組織を持っていません。国や行政は農家を育てるどころか、国境措置を緩めて、財政がないといって、これまで経営を維持するためにどうしても必要な補助金までなくしています。
 辞める農家も、これまで借金をやっと返し終えたのでここいらで辞める、という人がいますが、これからは年金も雀の涙で別の仕事を探さなければならず、それはそれでどこも大変です。いつの間にかいなくなった人もいます。これは花農家だけではないと思います。

自然災害で農業破壊加速
さらに新型コロナの影響

 三年前の北部九州豪雨、二年前の西日本豪雨、昨年は東日本での相次ぐ台風被害など、最近は異常気象による大災害が日常茶飯事です。とくに昨年の台風被害はじめ、農業被害が深刻です。私も西日本豪雨でビニールハウスに被害が出ましたが、支援はありませんでした。
 農産物の相次ぐ市場開放など歴代の売国農政で、安倍政権になっても食料自給率は下がる一方、どの農家も将来展望がもてず、農業で食えないから後継者は出てきません。高齢の農家がかろうじて続けてきた中での相次ぐ農業被害(農業機械の水没、ハウスの損壊、果樹の倒木など)は深刻で、全国で農業を辞める人たちが続出するのではないかと思います。
 そんな状況のなか、現在進行中の新型コロナの影響ですが、イベント中止などで需要が減少、価格が大幅に低下しており、さらに厳しさを増すでしょう。
 食料保障もまともにできない国が「強い日本」なのでしょうか。農家がおかれている状況の一端を知ってほしくて投稿させてもらいました。


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