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労働新聞 2019年9月15日号

書籍紹介/
『「宿命」を生きる若者たち』 

若者世代との対話の一助に

土井 隆義・著、岩波ブックレット

 本書の題名を見ただけで「なるほど」と思う人はいないだろう。しかし「はじめに」を読むと、いきなり軽いショックを受ける。「宿命」は、四十歳代以上の人間には「人生を縛り不自由なものにする桎梏(しっこく)」とマイナスイメージだが、三十歳代以下の若者は「人生の基盤となり安心感を与えてくれるもの」というプラスのイメージを持っているという。また「努力」という言葉も、上の世代は才能の対立概念だが、若い世代は才能の一部と捉えている。つまり、努力できる能力も才能であり、「才能がすべて」だと思うようだ。
 筆者の土井隆義は一九六〇年生まれ。もちろん上の世代。本書は(暗黙の了解で)上の世代向けに書かれており、下の世代である若者との時代精神の違いとその変化の背景にあるものを解説している。そして筆者は(これも暗黙の了解で)若者世代との対話のヒントになることを、共によりよい社会を築くための一助となることを望んでいる。
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 宿命観の違いだが、私が知人数人に尋ねると、どうやら三十歳あたりに境界線がある。概ね「昭和世代」か「平成世代」で認識が違うようだ。これはバブルという最後の好景気時代に物心がついているか否かの差のようで、本書でも右肩上がりの時代の後の「高原社会に広がる時代精神」として紹介されている。
 上の世代との違いは大きく二つ。
 一つは、経済成長がなく格差が固定化する状況で、自らに対する大望は薄れ、期待が下がった分だけ生活や社会に対する満足度は上がっているという。
 もう一つが、上の世代がむしろ桎梏と感じていた血縁地縁のしがらみ、職場や学校の人間関係だが、それが解体された後に生を受けた下の世代はむしろそれを望んでいるということだ。
 本書ではこれらの違いについて、多くの意識調査に加え、映画や音楽などの文化、さらには犯罪データも使い、多角的に考察している。かつては「自由と解放」の象徴だったロックだが、今の若者はロックで「絆」を歌っている、などの話は象徴的だ。
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 「若者が保守化している」と巷でよく言われる。安倍自民党への投票率が若い世代ほど高いことなどを受けての認識だと思うが、ここはもう少し丁寧に見た方がよい。
 本書では、地縁など拠り所を求める若者が「伝統」や「祖国」にすがろうとする傾向も紹介されている。しかしこれは「保守化」というより単に「絆を求めている」という方が実質に近いのではないか。
 これはあるテレビ番組での報道だが、下の世代では「保守・革新」の認識も完全に逆転していて、自民や維新が「革新」、共産党は「保守」と色分けしている者が多いという。そうであれば「若者は保守化して自民に投票した」というより、より世の中を変えてくれると思って自民や維新に投票したのではないか。
 お盆の時期に佐野サービスエリアの従業員のストライキが報道された。これを見た親戚の高校生が「日本でもストライキってあるんだ。すげー!」と大喜びしていた。何かを変えるために闘う姿をカッコイイと思うのは老若に違いがないとあらためて思った。(U)


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