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労働新聞 2019年8月5日号

介護職場泣き笑い記(2)

  高齢者の職場はKKT
(キケン、キビシイ、テイチンギン)

大阪府・乾 怜子

 介護、保安(ガードマン)・清掃、深夜・早朝のスーパーの仕出しやレジなどは、高齢者が求職しやすい(?)業界でもある。死ぬまで(?)働かなくてはならない経済的に厳しい高齢の私たちには仕事があるだけでもいいとも言えるのかもしれないが、しかしそこは低賃金、危険、パワハラ、セクハラの温床でもあり、高齢者にはまことに辛い労働現場といえる。

移動中の事故多発
 あの日、秋風が街路樹の落葉をまき散らし、ママチャリで先を急ぐ私にも容赦なく風圧が当たっていた。朝から五件目の介護訪問。疲れ果てていたが、私を待っている人がいると思うと力も湧いて、急ぎ自転車を走らせていた。
 その時、後ろから高校生の三人組に猛スピードで追い越され、反動で自転車ごと倒れてしまい、歩道の柵に思いきり胸から倒れてしまった。息ができないほどの胸の痛みにすぐには起き上がれなかった。「ごめんなさい」と泣きそうな高校生。とっさに「衝突ではないから」と取り繕い何とか立ち上がった。訪問先に行く時間も迫っているので胸の痛みをガマンして自転車をこいだ。
 痛みを隠し掃除や調理の生活介護の仕事を終えて外に出たが、もう一歩も歩けない。自転車を放置して通りかかりのタクシーで病院へ。肋骨が一本ぽっきりと折れていた。全治一カ月の負傷。
 仕事移動中の事故なので労災は適用され治療費は出たが、骨折なので一カ月も休むことになった。休業保障は出ない。つまりその月の収入はゼロ。
 ヘルパー仲間には、雨の中をバイクで移動中にスリップして転倒し路上に投げ出され、大腿骨骨折の重傷で全治三カ月という者もいる。もちろん労災は認められたが、休業補償はない。
 訪問ヘルパーの仕事は短時間で移動することが多く、しかも移動時間は無給。くたくたになった体で自転車やバイクを走らせている。移動中の交通事故は多い。
 また、腰痛を患う人も少なくない。よほどの因果関係が認められない限り労災は認められない。一時間千二百円程度の仕事をして、三十分七百円のマッサージを受ける? 退職する人も多い。

一人訪問は問題多い
 訪問ヘルパーは、基本は一人で利用者宅を訪問して排せつ介助や生活支援(掃除や調理)をするのだが、排せつ介助中に顔や身体を叩かれたりつねられたり、はよくあること。無理難題を要求する高齢者や暴力的な高齢者。「防御やガマンができない時はどうしよう?」と怖くなる瞬間もある。利用者からおカネや物品がなくなったと盗んだ疑いをかけられることもある。もちろんヘルパー側からの加害もあろう。そのような事故・事件を少しでも防ぐためにも、訪問介護は二人組でするべきではないかと思っている。もちろん経費は倍増するが、充実した介護サービスをするためにも、安心して働くためにも、二人組での訪問は検討されるべきだ。介護業界への財政出動は当面の緊急課題だと思う。

古来稀なほど生きても…
 自転車で移動中、工事現場で旗を振っている高齢ガードマンによく出会う。高齢の女性という場合もよく見受ける。暑い日も寒い日も、雨の日も風の日も、敬老の日も勤労感謝の日も、もちろん土、日祝日も、私たち高齢者はそうして働いている。働けているから何とか生きている。体を壊したり、ケガをしたり、とうとう働けなくなった時、どうなるのだろう…。
 家庭での介護がいろいろ理由で難しくなった人から施設入居の相談を受けることがある。ある知人は、資料などそろえて見学やショートステイを繰り返したが、「何とかかここなら」という所は満床で空室待ち。それも十七万円程度の有料老人ホームで、本人が出せるのは十二万から十三万円まで。「不足は三人の子世帯で負担するしかないが、それも長くはできない」と悩んでいる。
 今は相談受ける側の私だが、「いずれ私も…」と背筋がぞっとした。
 古希(七十歳)を超えた労働者を待ち構えるKKTな職場。古来稀(まれ)なほど生きてきた私たち。声、挙げられないか!


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