ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2019年7月25日号

ブラック職場体験記

 退職後「やれることあった」と悔い

三重県・佐藤 圭子

やはり正規雇用で働きたい
 社会人一年生の時、最初就職した会社でパワハラを受けました。当時はパワハラなどという言葉もなく、上司から明らかな嫌がらせをされても、暴言を吐かれても、「それも仕事のうち」との風潮もありました。社会的にパワハラが認知されていなかったのでガマンするか辞めるかの選択しかなく、泣く泣く辞めました。その体験から普通の会社で働くということが精神的に辛くなり、数年間はアルバイトを繰り返していました。
 その後、知人の紹介で自動車関連の会社に入りました。大企業の関連会社の下請け会社でしたが、十数年勤めることができました。親会社には労組がありましたが、私の会社にはありませんでした。家族的な会社で大きな不満もありませんでしたが、製造業だったので外国人労働者が多く、日本人の正規労働者と違い生産台数が減るとその都度外国人が斬られるという現実を何度も見ました。
 同じ現場で働いているのに、このような不公平が生まれる原因は何か、また働く人を守る法律はどうなっているのか、疑問が湧き、勉強して知りたいと思う気持ちが強くなりました。前からそのような気持ちもあったので、大学の夜間に入りました。アラサーの大学生でしたが、夜間なのでさまざまな年齢の人がいました。会社の理解もあり二年間夜間に通い、その後昼間に移る決意をし、思い切って退職しアルバイトをしながら卒業しました。
 法学部だったので、法律にかかわる仕事をしたいと考え、希望する所に就職しました。しかし非正規雇用しかないのが現実でした。前の会社では日本人の非正規雇用はなかったので、これが今の日本の現実なのだと実感させられました。雇用期間は三年で、その後の継続は確約されてなかったので、三年以上働けますようにと祈りながらの毎日でした。この三年間は、仕事柄、多くの人たちの貧困や不幸を目の当たりにする機会も多く、そこに至る経過を知るたびに、平等・公平っていうけどウソなんだなあと気付きました。
 継続雇用の願いもむなしく三年で雇い止めになり、同じ職種を探しましたが見つからず、「自分はダメ人間なのか」とかなり落ち込んだ毎日を数カ月過ごしました。
 今度こそ正規で働きたいと職種を問わず仕事探しを始めましたが、いつからこんな日本になったのと思うほど正規従業員を募集している会社は少なくなっていました。

想像絶するひどい職場
 それでもやっと昨年五月に正規で事務員の仕事が見つかりほっと安心して働き始めました。二十人弱の小さな広告会社でした。どんな職場だったのかというと……
(1)社長が突然、何でスイッチが入るのか分からぬうちに、誰彼なく社員を怒鳴り散らす。取引先の社員でもお構いなし。怒鳴っている間、机を叩き続ける、物が飛ぶ時もある。その標的になった社員にはさらにひどく当たる。
(2)社長の気分で給料が一気に下がる。給料表がない。
(3)社長から辞めるように仕向けられたりする。嫌気がさして退職を望んでも気に入った辞め方でないと給料はほぼ未払い。
(4)就業規則は社長しか見ることができない場所にある。社員には見せてもらえない。入社時にだけ見せてもらったが、そこに書かれていたことと現実は大違い。
(5)残業代は一日二時間、十九時までしか払われない。営業、デザイン部門の人は夜二十四時近くまで残業しなければならないことが多いが、それでも残業代は二時間分のみの支給。
(6)有給休暇も取れない。有給を一日でも取ると皆勤手当の一万円が無くなるので誰も取らない。
 こんな理不尽な毎日を過ごし、事務系の数人の人と打ち解けるようになると、以前からおかしいとは思っていても皆がどうすることもできないと考えてることが分かりました。また、私と入れ替わりで退社した人は、給料計算もPC化し事務の効率化も図った有能な人でしたが、社長の人格にあきれ退職したとのことでした。この人にも給料が支払われませんでした。
 私もモヤモヤとした毎日を過ごし、昼休みに数人と愚痴(ぐち)を言い合っていましたが、お盆休みに思い切って労働基準局に行ってくると宣言し出かけていきました。入社して三カ月しか経っていませんでしたが、勇気が湧いてきていました。状況を説明すると、労基所の職員は「すべて基準法違反ですね、指導に入りましょうか?」と言われましたが、自分一人で判断できず「お願いします」とは答えられませんでした。
 「やっぱり法律違反してるんや、社長に間違ってると面と向かっていってやりたい、働く者を大事にしろ」と向かっていきたいと思いましたが、決断できませんでした。数人の職場の仲間に伝えると「やっぱり違反してるんや」と確認し合いましたが、今後どうしようと言い出す人もいない中で、労基所でもらったパンフレットを配ることが精いっぱいでした。
 労働法違反と分かっていても生活がかかかっていることを考えるとハードルは高いと思いました。また後から聞いた話では、以前社長に「おかしい」と訴えた人がいたのですが、その闘いはうまくいかなかったそうです。その経験がトラウマになっている人もいるとのことでした。
 ブラック職場に一年強いましたが、以前の職場の先輩から紹介で再度の転職の決意をしました。非正規ですがやりたい仕事なのでがんばってみようと思っています。

やはり労働組合が必要だ
 ブラック職場をつい最近退職したわけですが、今時まだこんな会社があり、辞めることもできずに毎日働いている人たちがいる現実があること、そのことを知ることができたことは、今までにはない経験でした。
 振り返ってみると、これでよかったのか、もう少し職場の皆なといっしょにできたことがあったのでは、との思いも残っています。
 例えば、ブラック職場を変えるため、就業規則に署名している従業員代表に働きかけて就業規則を見たいこと、政府がいっている働き方改革でも残業は規制され企業は守る必要があることなどの投げかけをした方がよかったのではないかなどと思っています。
 また、労働基準監督所に「指導に入って下さい」と勇気を出して言えていたら何かが変わっていたかもしれないと考え込むこともしばしばあります。
 心の中でおかしいと思い、職場の仲間も新入社員の私の意見に耳を傾け同調してくれたのにと思うと、この先解決する方法はあるのかと考えました。
 労働者が経営者と対等に話し合うには「労働組合」をつくることが初めの一歩と勉強しましたが、その通りなのだと今回の経験を通じて理解しました。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2019