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労働新聞 2019年6月15日号

なぜ自治体に祝意記帳所?

  天皇即位の政治利用おかしい

神奈川県・磯子 珠男

 私が勤務している政令指定都市では、五月一日に「令和」へ元号が変わることに伴い、「新天皇陛下御即位を祝う」ために「祝意(以下略)」奉表の場として各行政区の区役所に記帳所を設置しました。ゴールデンウイークにもかかわらず、御即位を祝う多くの住民が記帳に殺到することを想定して、市の職員が記帳所を各区役所一階ホールに設置し、三日間運営し勤務しました。
 今年の四月二日に安倍政権は「御即位当日における祝意奉表について」を閣議決定しました。内容は「御即位当日、祝意を表するため各府省において次の措置をとるものとする。(1)国旗を掲揚、(2)地方公共団体に対しても国旗を掲揚するよう協力方を要望、(3)公署、会社、その他一般においても国旗を掲揚するよう協力方を要望」。
 併せて当日、各都道府県知事・各政令都市市長あてに総務省地域力創造審議官から「天皇陛下御即位に伴う祝意奉表等について」という通知がありました。この通知には国旗掲揚の取り組みのほかに、慶祝行事等の積極的な実施が明記されていました。
 四月十日、副市長は国からの通知を根拠に各局長に「天皇陛下御即位に伴う慶事行事としての記帳所の設置について」を通知しました。これを受けて同日、総務局長から各区長宛にいっそう具体的な記帳所の設置の通知が出されました。
 各区長は、総務局長通知に基づき、各区役所の一階ホールのエントランスに祝意奉表のために記帳所を設置。開設期間は令和五月一〜三日までの三日間、開設時間は午前十時より午後四時まで、実施体制は受付に職員を数名配置、実施内容は庁舎内に記載台及び芳名帳、文具等を設置し市民の住所・ご芳名を記入していただくとしました。
 当日の区役所会場には「天皇陛下御即位奉祝記載所」と重々しく看板が掲げられていました。入口付近などに黒スーツ、白手袋を着用した職員が、まるでお葬式を連想させる装いで、畏(かしこ)まり佇(たた)んずんでいました。実際、当日応対する職員は市民との応答マニュアルを事前に読み込んで丁重で真摯(しんし)な態度で接待しました。応答集の事例では「……ご記帳いただいた芳名帳は、後日、市として宮内庁にお届けします……」と念を押し、住民を安心させる文言が使われていました。
 さかのぼること五年、全国の地方自治体首長に対して防衛相が自衛隊募集の業務に関する住民基本台帳データの提供を通知しました。住民の個人情報保護条例に抵触するとして約半数の革新的な自治体が拒絶、残り約半数の自治体は「法的の問題なし」として防衛相に対してデータを提供しました。このケースは「今回の天皇陛下御即位祝意用記帳所の設置」と考え方は同一線上にあります。
 戦前の天皇制は「神聖ニシテ侵スベカラズ」とされ、国家神道の頂点に立つ日本帝国主義の支柱でした。その天皇制に反対するのは、当時の日本共産党とその影響下に人たちだけだったようです。
 戦後も、米国によって生かされた昭和天皇は、「国民統合」の象徴として、幾度も政治的に利用され、平成天皇も同様でした。
 今、よりいっそうの対米従属を強め、日米は一体だという安倍政権に対して、わが国支配層や保守層内部にも疑問と動揺が広がり始めて時、日本の進路は「対米従属=日米同盟」しかないかのようなイデオロギーを国民に植え付けるために、「国民統合」の象徴として、天皇の代替わりを積極的に利用しています。
 戦前憲法下では地方自治は認められていませんでした。戦前は都道府県市町村について、旧内務省の最下位的な末端行政機関と位置付けられ、臣民戸籍に基づき赤紙など召集令状を送達するなどしていました。防衛相への住民基本台帳データ提供や天皇陛下御即位祝意用記帳所の設置の国の通知は、憲法が保障している地方自治の自立・自由を無視しています。
 安倍首相は「天皇ご即位をもって日本すべからく全臣民ら全体に心身一致をなし、わが日本国の悠久からの民族的優位性の想いに馳(は)せて、よりいっそうの国威発揚することを目的に、市町村に記帳所を設置する」と言いたいのかもしれません。
 しかし、三日間で百数十人の記帳しかなかったようで、思惑通りに入っていないと思いますが、町内会が動員されたようで、これはこれで問題があります。
 なぜ、市の職員を休日出勤までさせて「記帳所」を設置したのか。反対意見はなかったのか。しっかり検証して、「天皇制」と天皇を政治的に利用している政府の意図を暴露したいものです。


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