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労働新聞 2019年4月15日号 投稿・通信

在宅医療の現場から考える 
制度の矛盾に直面する日々

 不安を覚えるこれからの日本

東京・看護師 川久保 妙子

 二〇〇〇年に介護保険制度が導入され、今年で十九年目を迎えることになりました。当初、介護保険の基本理念「社会全体で支え合う」、この言葉は家族や本人の肉体的・経済的な負担を軽減させ、老老介護や介護離職への解決策として、「介護保険」まさに救世主のように登場しました。これまでの福祉制度は自治体が「措置」として受けるべきサービスを決めていたが、利用者が必要なサービスを自分で決めていました。選択し契約することができるということで、当時の世論としては受け入れられ、施行されました。その半面、「応能負担から応益負担」への転換というかたちでスタートした介護保険は、当初から「破綻する」と言われていました。

制度改定に振り回されて
 私は看護師として今その制度の中で働いています。人生の半分以上を看護師として生き、今は子育てもあり非常勤として勤務していますが、私たちの仕事、生活と制度の動きは切り離すことはできません。ご存じない方も多いと思いますが、介護保険は三年に一度、医療保険は二年に一度の改定があり、現場で働く私たちはこの制度の中で仕事をしなければなりません。
 病院、施設で勤務していると、医療制度の改正が仕事にどれだけの影響があるか体感できずにいました。今、在宅で活動していると生活に密着していますので、利用者さま、家族の生の声が聞こえ、金銭的な不安や制度の矛盾を肌で感じ、介護保険という安心できるはずの保険が実際は利用したいサービスは利用できず抑制され、ヘルパーの訪問時間も短縮され、利用する側もまた提供する側(介護職)にとっても疲弊困憊(こんぱい)するばかりの制度となっています。この先さらなる負担が私たちの生活に悪影響を及ぼす可能性は大きく、油断せずにしっかりと構え、声を出していく必要があり、子供から高齢者までを支える社会保障制度の改革が必要なのではないでしょうか。

人手不足は在宅で顕著に
 古い考えかもしれませんが、私は女性でも自立して生きていくために「手に職をつける」ため看護師を選択しました。看護師という職業は崇高な仕事、「白衣の天使」という半面、3K労働「きつい、汚い、危険」と敬遠されがちでもありました。実際、私が看護師を選択し働き始めた頃、母は「あんなきつい仕事はいつでも辞めればいい」言っていました。そんな過酷と思われていた仕事が、今は私にとって天職となりました。そして、今、少子化の影響で学生確保に苦慮するなか、各大学が看護学部を新設する動きもあり魅力ある職業となりつつありますが、実際は看護学校を卒業しても現場(臨床)、特に在宅というフィールドには十分な人材がいないという現象が起きているのも課題となっています。
 看護業界も「ワーク・ライフ・バランス」「働き方改革」というワードがよく聞こえてきます。看護師は女性が多い職業でもあり、ライフステージ、妊娠、出産、育児、介護をしながらも働き続けられる仕事であることが望ましいのですが、やはりそれは決して簡単なことではありません。施設での泊まりの夜勤や在宅での二十四時間での電話相談、対応、出動もあり、心身ともに負担を強いられることも少なからずあります。それでもこの仕事を続けていくこと、それは看護師としての使命感もありますが、やはり生きていくこと、私であれば自分たちの生活の基盤を維持し子供を養っていくことが必要だからです。
 内閣府発表の日本の将来人口推計では、二〇五〇年に総人口が九千万人まで減少、労働力人口(生産年齢人口=十五〜六十四歳)は五一年には五千万人割り込む予定です。これから働く人が減少する中でどのような社会を維持していくのか、その対策と称して働き方改革関連法が公布されるに至りましたが、人手不足の余波はすでに在宅では起きています。それを実感し危機感を感じているのはサービス提供側であり、利用者や家族はまだ実感できていないようです。今の日本の姿はこれから生きていく子供の未来にも影響することであり、非常に不安を感じています。日本のこれからの進むべき道と今あるべき姿をしっかりと見据え、出口のない迷路に陥らないよう声を大きく出していくことが大切と考えます。


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