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労働新聞 2018年11月25日号 投稿・通信

韓国・大法院の判決は立派な判断

歴史の真実直視を!

名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊
訴訟を支援する会共同代表 
埼玉県・寺尾 光身

  アジア太平洋戦争末期に戦前の日本が植民地としていた朝鮮の人民を強制連行・強制労働を強いていたことに対し被害者が日本の加害企業に謝罪・補償を求めて韓国で起こしていた裁判ですが、韓国の最高裁である大法院で相次いで原告勝訴の確定判決が出始めました。まず十月三十日に新日鉄住金について、十一月二十九日には三菱重工広島と三菱重工名古屋の二件、計三件。なお日本での裁判ではいずれも原告敗訴が確定していました。
 私がこの二十年ほど関わってきた名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊事件では、被害者は女性、それも十歳代前半の幼い少女たちでした。日本に行って働けば給料がもらえる、お腹いっぱい食べさせてもらえる、女学校にも行かさせてもらえる、などの甘言に誘われ、三百人もの少女たちが名古屋に連れてこられ、三菱重工名古屋航空機製作所で軍用機の生産に従事させられましたが、約束はまったく守られませんでした。
 背の低い少女たちを踏み台に乗せ旋盤などの工作機械を使わせました。原告の一人は指を切り落とすというひどい労働災害にも遭いました。敗戦前年の十二月に名古屋地方を襲った東南海大地震では、工場が倒壊し六人もの少女が命を奪われました。日本の敗戦後に韓国の親元に返す際、給料は後で送ると言いながら、それは未だに果たされていません。
 帰国後も被害は続きます。韓国では女子勤労挺身隊は従軍慰安婦であるとの誤解が広まっていたために、勤労挺身隊として日本に行っていたことが知られると「お前は慰安婦だったのか。汚い女だ」と言われてしまうので、自分の被害を訴えることもできず、結婚も難しく、結婚して子どもを設けてから日本に行っていたことが夫に知られて家庭が破壊するなど、従軍慰安婦の方と同じ苦しみを味わされました。
 一九九九年三月に名古屋地裁に提訴しましたが、原告の一人は匿名での参加でした。一、二審とも敗訴、最高裁に上告しましたが、却下され、名古屋高裁の原告敗訴の判決が確定しました。しかし原告の被害がILO(国際労働機関)条約に違反する強制連行・強制労働であったことをはじめ、原告の皆さんの人生が奪われるという重大な人権侵害であった事実を認めました。ただ、日韓請求権協定があるため、個人の請求権は失われてはいないものの、裁判で解決する権能は失われているという、訳の分からない理屈で国と三菱を免罪してしまいました。
 私も関わっていた「支援する会」は、最高裁に上告中から、また上告が棄却され裁判が終結した後も、毎週金曜日に品川駅港南口と近くの三菱重工本社前で謝罪と補償を求めて情宣活動を行っており、十一月三十日には四百四十八回目となりました。
 裁判終了後しばらく経って、三菱重工からの求めに応じ、二年間十六回にわたる交渉を行いました。その中で三菱は自らの加害の事実を認めながら、最後の結論は、「謝罪も補償もしない」ということであったので、以後、交渉は拒否しました。
 原告の皆さんはその後、韓国の光州で裁判所に三菱重工に謝罪と補償を求める訴訟を起こしました。その結果が文頭で述べた十一月二十九日の大法院の原告の勝訴判決です。三菱重工に原告一人当たり一億ウォン(約一千万円)の慰謝料の支払いを命ずるものでした。
 大法院から原告勝訴判決が出されると、日本政府は間髪を入れず「すべて解決済みとした日韓請求権協定に反する」として韓国政府に異常なまでに高圧的に抗議を行い、また多くのマスコミも日本政府に同調する論評を展開しました。
 しかし、協定には「すべて解決済み」と書かれていることは事実ですが、協定締結当時から「個人の請求権は失われていない」というのが日韓両政府の見解であり、現在もこの見解が正しいことを日本政府も認めています。「すべて解決された」という「すべて」の中には個人請求権による請求である原告の請求事件は含まれていません。ですから日本政府の抗議には何の根拠もないのです。
 また大法院の判決は、日本での原告敗訴判決では日本の朝鮮植民地支配が合法であるということが前提とされているが、大韓民国の善良な風俗やその他の社会秩序に反するものであり認められない、と言っています。植民地主義が不当であることは今や国際的な常識となっており、大法院による原告勝訴判決は立派な判断というべきです。
 韓国では同種の訴訟で原告勝訴の判決がこれからも続くでしょう。原告の皆さんは皆高齢になっています。残された時間は多くありません。
 加害企業はその汚名を少しでもそそぐたにも、歴史の真実を直視し、ドイツの戦後処理にならって、原告との和解の道に一日も早く踏み出すべきです。中国人と西松建設や三菱マテリアルとの訴訟のように和解が成立した例もあるのですから。


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