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労働新聞 2018年11月25日号 投稿・通信

書籍紹介/
『ごみ収集という仕事—
清掃車に乗って考えた地方自治』

清掃労働者の過酷な労働実態 
現場理解し味方増やす一助に

 今年の初めだったか、自治労都本部の委員長に会った時、「今年は大きな選挙がないので、困難を抱えている現場の支援に入りたいと考えています」と言った。「例えば?」と聞くと、「一つは清掃ですね」と言って見せてくれたのが東京清掃労働組合の機関紙「せいそう労働者」の新年号だった。
 彼が示したのは「荒川区全域の集積所を責任もって見守る」という記事で、脇に「退職不補充方針はもう限界」とサブタイトルがある。その記事で「車付雇上」なる言葉があることを初めて知った。本書によれば「雇上」は「ようじょう」と読み、車付雇上とは、区が業務を委託する会社から作業員付きで清掃車両の配車を受けること。清掃事業が東京都から区に移管された後は、退職者不補充による人員削減の代用手段として活用されているという。
 この十月、東京都特別区人事委員会は、一般職月給を平均九千六百七十一円も引き下げるという、史上最悪の勧告を出した。当然、清掃事業などに携わる現業、業務職もこの勧告に準ずることになる。生活破壊じゃないか! 頭にきていたさなか、先の彼からまた教わった。「『ごみ収集という仕事』って本、読みました? もう七刷りです」
 すぐに買って読んだ。心にいたくこたえた。
 「日経新聞」十月二十四日の記事に特別区の人勧について「勧告通り実施されると、職員一人当たりの平均年間給与は十二万三千円減の六百四十三万六千円になる見通し」とある。
 減らされるにせよ、年収六百四十三万円超ならけっこうじゃないか、といわんばかりの記事だ。大阪府知事・市長を務めた橋下徹の手口に乗せられてはいけない。
 過酷な労働を余儀なくされている職員への給与としては、あまりに低すぎる。本書を読めばすぐに分かることだ。
 始業時間は早朝七時四十分で、まずはミーティングと打ち合わせ。ここでその日の作業の段取りや注意事項が徹底される。この後、腰痛予防体操をして、ごみ収集に出発。家庭用ごみには爪楊枝(つまようじ)や焼き鳥の串などが含まれているし、注射針が入っている場合さえあるという。だから職員は破傷風予防のワクチン接種をしているのだ。そして一日の作業が終われば「洗身」。そうしないと公共交通機関に乗れないからだ。十六時二十五分に退庁である。
 これはほんの一例で、知らないことが山ほどあった。ごみ出しルールへのいい加減な理解も反省させられた。
 東京清掃労組や特区連の総決起集会で労働党がまいた激励ビラにこんなことが書かれていた。
 「今こそ地域住民の中に入り、かれらが知らない皆さんの過酷な労働実態を伝えて、労働条件の向上が欠かせないこと、公務員の賃金カットがなぜ許されているのかを率直に訴えるべきです」
 特区連と清掃労組はこの秋、ストを構えて最後まで敢然と闘い、マイナス勧告の実施見送りを勝ち取った。これまた史上初という。この本がもっと読まれれば、闘う労働組合への味方はさらに増えるに違いない。
  *  *  *
 著者の藤井氏は大学の准教授だが、本書は、研究の一環としてかかわった九カ月に及ぶ東京都新宿区での清掃現場体験記録である。
 ネットで知ったが、十一月の杉並区議会で松尾ゆり議員が清掃業務について質問し、夏の過酷な労働や、区が昨年導入した「車付雇上」についても区の見解を糺(ただ)していた。
 本紙の「通信」欄には助けられているが、私たちは、労働者の労働条件、生活など、かれらが置かれている実態をもっともっと知らなければならない。(N)

 藤井 誠一郎 著、コモンズ刊
2376円(税込)


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