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労働新聞 2018年5月15日号 投稿・通信

生活現場の最前線で人生の始まりから終わりまでを見つめて思うこと

  大切な人権感覚持ち続けたい

福岡県・白鳥 美子

 私は、地方の市町村で生活保護のケースワーカー業務に従事しています。今年で三年目を迎えました。私自身はさまざまな困難を抱え生活している人の力になりたいと思い、社会人になってから福祉職の資格を取得し、福祉の現場で十数年働いています。以前は別の立場で生活保護業務に携わっていましたが、生活保護のケースワーカーとして自立助長のお手伝いができればと考え、契約職員ではありますが志望しました。
 入庁した当時は、慣れない行政独特の書式や仕組みにかなり戸惑いました。
 景気が良くなっているという報道もありますが、私が担当する地区では生活保護受給者は増加しています。一人の担当者平均で九十件から百件以上を受け持っている状況です。家庭訪問で一人ひとりの状況を丁寧に把握し、親身になって援助できるまでの余裕はない状況です。
 行政のいちばんの優先事項は適切に保護費を支給することです。保護費は皆さんの大切な税金から支給していますので、当たり前ではありますが訪問や面談に時間をかけ過ぎず、事務処理が遅れないよう上司から指導を受けることもあります。今まで時間をかけて相談を受けることを行っていた私には苦しくなることもあります。
 生活保護の申請相談に来る人で、特に高齢単身者で年金収入が少ない状況で生活困窮している事例が増えいます。ご自身で相談に来ることもありますが、家族が代わりに来所することもあります。以前は、年金収入が少なくても子どもたちが協力して扶養していたのだと思いますが、親を養うだけの経済力や精神的な余裕がなく、医療・介護費用が負担できないために、子どもたちが相談・申請を行っている現状があります。家族だけでは親の生活や介護を支えることができない厳しい現状がここにあると思います。
 ある高齢夫婦の生活状況をうかがうため家庭訪問をした時、子どもたちとの交流状況や子どもさんから援助を受けているかなどを尋ねました。妻は「自分たちは朝から晩まで働いてパートを掛け持ちして子どもたちを大学まで卒業させ、就職し独立していった。しかし、自分たちは年金をかけておらず、今では働くことができなくなったが、子どもたちから盆・正月でもわずかな小遣いもなく、いっさい援助を受けることはない」と肩を落として悲しい表情で語っていました。
 このように、真面目に一生懸命家族のために働いてきた人が、高齢者になった時に安心して生活することができないという現実が、わが国は弱者にとって厳しい状況であるということを物語っています。
 国が、当たり前の生活を送ることを保障するのではなく、「自己責任」という名のもとで責任を放棄している、こんなおかしな状況に怒りを覚えます。生活保護を受けている世帯の方はほとんどが単身世帯です。生活保護を受給していることで親族との交流が途絶えている方も多く、心身面で疾病・障害を抱えている方もいます。
 面談の中では親族との交流・社会的つながりの有無を必ず確認していきますが、多くの方が盆・正月等の時節のあいさつ・慶弔の交流を持つこともできず、親族に電話をすると借金の申し出と勘違いをされるので連絡をしていないと語る人もいました。単身世帯の人の場合、長期休暇中に孤独死で発見、警察より連絡があることも日常茶飯事です。亡くなった際に葬儀・火葬を執り行う身内がおらず、行政の予算で執り行うこともあります。火葬された遺骨を引き取る方を探すのも私たちの仕事ですが、孤独死をされた人で遺骨の引き取りもなく、無縁仏として葬ることもあります。親族がいても引き取る墓がない、縁を切っているため関係ないと冷たく断られることもあります。生前時の関係や感情、また親族の方の生活状況が厳しいこともありますが、弱者には亡くなってからもさまざまな困難が付きまとうのです。
 一人ひとりの人間が誰でも安心して生まれ自分らしく生活することができ、やがて安心して最後を全うすることができる社会になるには、私たち自身が今、世の中で起こっていることや物事の本質がどこにあるのかを、しっかりと捉えることができる学びや視点が必要であると、さまざまな活動を通して学んでいます。
 日々の忙しさの中で人として大切なことを見失いがちになりますが、いっしょに活動する皆さんのおかげで自分の大切な人権感覚を持ち続けることができていると思います。一人でも多く共に学び活動できる仲間を増やしていくことが、やがて社会を変えていくことにつながると信じています。これからも仲間とともにがんばっていきます。


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