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労働新聞 2018年3月5日号 投稿・通信

五輪の南北合同行事に立ち会って

  統一に向けた歴史的な一歩に

朝鮮総聯職員・李 全美

 二月八〜十二日、ピョンチャン五輪総聯応援団の一員として韓国を訪れた。在日三世であり、故郷は南、朝鮮籍保持者、朝鮮総聯の職員でもある私にとって、初めての南の地への訪問となった。一月に朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の金正恩・朝鮮労働党委員長が新年の辞で五輪への参加を表明、南北の協議の中で総聯系の在日同胞の五輪応援が認められたからだ。
 思い起こせば私が二十歳代の頃、二〇〇一年の六・一五共同宣言、〇七年の一〇・四宣言と、南北の関係はかなり踏み込んだ形で祖国統一に舵を切っていた。にもかかわらず韓国の李明博、朴槿恵政権下で関係は急速に冷え切り、南北の交流は途絶えてしまっていた。南への往来も自由な時期があり総聯系同胞の故郷訪問団も組織されたが、政権の変化により領事館からの圧力で韓国籍保有者が総聯での活動を妨害されたりするケースが後を絶たなくなった。それだけに今回のピョンチャン五輪での南北の歩み寄りは私たち在日同胞にとって大きな驚きと喜びであった。またその事業の一環として総聯職員である私が堂々と南の地を訪れることには大きな政治的意味があったと思う。
 韓国国内でも総聯応援団への関心は高く、空港では大勢の取材陣と「六・一五共同宣言実践南側委員会」をはじめとする南の各団体が出迎えてくれた。「われらは一つ」「すべての同胞の力を合わせて祖国統一を成し遂げましょう」と書いた横断幕と統一旗が揺れる空港に降り立ち、うれしさに涙がにじんだ。また日本では「ピョンチャンは寒すぎて五輪ができる状況ではない」と連日のように報道されていたのだが、思ったより寒くなくホッとした。
 開会式は九日夜二十時から開始した。会場には朝鮮からの応援団の姿があり「パンガッスンミダ」(お会いできてうれしいです)の歌や息の合ったパフォーマンスで観客を沸かせていた。そして開会に先立って会場入りした韓国の文在寅大統領の後に、朝鮮の金永南・最高人民会議常任委員長、そして今回国際社会に鮮烈なデビューを果たした金与正・朝鮮労働党第一副部長の姿が見えると会場はどよめいていた。私の席からはかなり遠くの位置ではあったが、南北首脳級の握手する姿を見た。歴史が動く瞬間を目の当たりにしているのだと思った。
 想像より寒くなかったとはいえ零下三度の世界。キンと冷えた空気のせいなのか、演出の光はまばゆく、音も冴えわたっていたように感じた。韓国歌謡や民謡、K—POPなど新旧の音楽が響き渡る中、次々と選手たちが入場してくる。私はいっしょに行ったメンバーと時には歌ったり踊ったりしながら(そうでもしないと寒くて大変だったのもあるが)すっかり開会式の雰囲気を楽しんでいた。そしていよいよ南北合同行進。会場に鳴り響く「アリラン」に胸が震えた。大声でアリランを歌いながら統一旗を思いっ切り振った。周りは統一チームではなく私たちを撮影しているほどだったので、よっぽどうるさかったのだと思う。それでも喜びと興奮を抑えられなかった。
 祖国の地を離れ日本で生活していると、まずは気持ちが日本に向いてしまう。それくらい総聯、在日朝鮮人、朝鮮学校への弾圧、ヘイトスピーチをはじめとした排外主義。心がクタクタになってしまい、本来の目標であり朝鮮民族のスタートラインでもある祖国統一は生活の意識の外に追いやられてしまう。しかし南北の合同行進、アイスホッケー統一チームの代表が聖火を持って階段を駆け上がる姿に、歴史、文化、言葉が同じ南北朝鮮は無条件で統一しなければならない、そこには理由なんて必要ないのだと心から実感した。
 いち参加者の私ですらあの開会式の雰囲気だけで統一の重要性を感じることができた。それを考えると、生活を共にし、練習をし、試合をしたアイスホッケーの合同チームはどれだけ心が通っただろう。別れる時にお互い泣きながら名残惜しそうに手を離せないでいる姿があまりにも印象的だった。《会うことが統一だ!》というスローガンがある。会って、言葉を交わして、お互いの体温を感じることが統一を一日でも早く連れてくるのではないだろうか。統一チームのメンバーが繰り返し「また会おうね!」とつぶやいていた。必ず、必ず実現されるものと信じている。
 ピョンチャン五輪は、分断以来の朝鮮半島の歴史の大きな一ページとなる民族の祭典となった。これを機に統一への動きが活発になることを心より願ってやまない。
 今回の五輪で米韓軍事演習を必ず行うようにと文大統領に意見をした日本の安倍首相も、アジアの一員として、朝鮮を植民地支配した旧宗主国の子孫として、朝鮮半島の統一に寄与すべきだと私は思う。

り・ちょんみ
 一九八一年生まれ。在日本朝鮮人医学協会専従。共著に『家族写真をめぐる私たちの歴史 在日朝鮮人・被差別部落・アイヌ・沖縄・外国人女性』(ミリネ)


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