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労働新聞 2018年3月5日号 投稿・通信

高齢者の職場奪う駐輪場民営化
負担増に加えて収入減?

  これでは生活できない!

大阪府・須藤あじへい

 大阪にあるA市のシルバー人材センター(以下、センター)の会員登録を済ませたのは、二〇一四年十一月半ばだった。
 センターは会員向け高齢者の就業者を斡旋(あっせん)しており、また草刈り、剪定(せんてい)などのほか、多くの高齢者向け事業を請け負っている。登録の会員数は二千八百人、実働は千八百人ほど。センターで定めるところの就業規則などの研修を経て就業する。就業期間は三年間。賃金は分配金として支払われる。雇用ではなく会員はいうなれば個人事業主だ。
 私は駐輪場での就業研修を受けた。教育係が付いての三カ月研修と就業前の数時間の現場研修を行った後、勤務数日前に就業配属事業所のリーダー、副リーダーと会い、これまでに説明し切れなかった部分を打ち合わせた。そして市営駐輪場での勤務に就いた。

持病抱えながらも働く
 実際に仕事を始めてみると、普通は一、二度聞けばわかるはずが、私には覚えにくい苦しみがあった。
 私は生まれつきの鼻中隔湾曲症であることを、最近まで知らなかった。子どもの頃、軽い左の鼻詰まり、授業中でも今日は調子がいいと思いきや急に憂鬱になったり。長距離を走ると呼吸の乱れ、疲れがなかなか取れないなど、体を鍛えにくいと感じていた。おそらく酸欠状態だったのだ。
 北海道の中学を卒業し、地元の菓子舗に就職した。十七歳で蓄膿症の診断で手術を勧められたが、手術入院などの費用がなく手術はしなかった。二十歳の頃、神戸市に出て、菓子職人にとして修業を始め、三十一歳で独立、菓子工房を開いた。二十歳のころ、二〇〇を超える高血圧で風呂屋で倒れることもあった。その後も重苦しい首と肩こり、夜中の咳き込み、気管支炎などに悩まされながら年月を重ねた。一九八一年にB型肝炎、気管支喘息(ぜんそく)と診断された。職場に近くには国道が通っており、公害病といってよい。
 近年、鼻詰まりがひどく、副鼻腔炎、蓄膿症、鼻中隔湾曲症の手術をした。術前の説明で失明の可能性があると聞き、手術をためらった。幸い、術後は血圧が下り、喘息も軽くなった気がする。
 ところが九五年の阪神・淡路大震災でケーキ店は半壊、その後、閉店せざるを得なくなった。再起を期したが、数カ月たったある日、脳梗塞の症状が出た。しかし借金の返済に追われ、医療費の余裕はなかった。治療も受けず、「なるようになれ」という祈るような気持ちであった。その後に回復したが、今思えば奇跡としか思えない。
 駐輪場に勤めた時期には脳梗塞の症状が残っており、鼻炎鼻詰まりが拍車をかけた。少しずつ改善の方向に向かっていたが、仕事が覚えにくい、言葉がすぐ出にくいこともしばしば。このように困難な事情はあるが、なんとかがんばって駐輪場で働き続けている。
 私が担当している職場は、一班(三人)が六時から十二時まで(駐輪場の鍵開けは四時四十五分)、二班(三人)が十二時から十八時まで、三班(三人)が十八時から二十一時まで、四班(一人)が二十一時から二十五時まで。このような勤務形態で二十六人体制である。
 約二十カ所の駐輪場では、センターを通じて約三百五十人の高齢者が働いている。年金受給までの働き口として、また年金だけでは生活できない高齢者にとって、大事な職場だ。

高齢者いじめの維新市政
 ところが、昨年の夏頃から、駐輪場が民営化されるという話が広がった。駐輪場の指定管理者を民間公募するというもの。十一月には入札が行われ、十二月の市議会の承認を得て、D社に決まった。期間は今年四月から五年間。D社は、造船関係から駐輪場施設の開発、設置などを手がける大規模な複合企業だ。
 財政再建を口実にした民営化の推進は橋下維新府政で推進されてきた。現在のA市も維新の市長。だから何が何でも通すのだろう。入札もすんなり決定してしまった。放置自転車対策も含めて、市の年間予算は十二億円と言われている。市議会の会報によると、シルバー人材センターを特定しなかった理由として「競争性の確保のもと、よりよい指定管理者の選定を図る」「府内の中核市や近隣市の多くが公募」「高齢者の就業機会の確保は別の制度で」などと説明している。
 しかし、センターを通じて働いている三百五十人の高齢者にとって死活問題だ。昨今、年金受給額は下がりる一方、保険料は上がり、さらに受給年齢も上がっている。定年から無収入になる期間は長くなった。年金額といっても人によってさまざま。ほとんど無年金状態でとても年金だけでは暮らせない高齢者が増えている。センターは低い賃金であっても生活を支える重要な職場になっている。私のように持病を抱えている高齢者も多い。そういう高齢者向けの職場がほかにあるのだろうか。
 指定管理者になったD社は「シルバー人材センターを通さず、従事者を直接雇い入れる。ただし、シルバー人材センターの会員には、募集案内を行い、試験・面接などを行い、一年契約で採用(人数は不明)する」との説明があった。その後、希望する人は「半年間、継続契約する」という話になった。問題は、半年後にどうなるかである。D社は「(シルバー人材センター会員は)予想以上に高齢ですね」と漏らしているという。
 D社のホームページを見ると、駐輪場の省力化設備を事業の一つにしている。センターとは違い営利企業である。駐輪場関係の年間予算十二億円だが、今回の民営化でどれだけ削減されるのか分からない。
 民営化は、必死で生活する高齢者の働き場を奪うマイナスの効果の方が大きいのではないか。国の社会保障制度が破壊され、負担ばかり増える中で、高齢者の仕事を奪う、高齢者いじめの市政は許せない。


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