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労働新聞 2017年10月25日号 投稿・通信

大地震から1年半を経て 
震災被害者に対する冷淡さを実感

 次の大地震へ問われる国の姿勢

熊本県宇城市・松本 義男

 震度七を二回も記録し、その後も続いた大きな余震によって甚大な被害となった熊本地震から一年半が過ぎました。
 被害が甚大だった益城町を通っても、倒壊した建物やガレキが散乱し、道路の際まで続いていた風景は、解体・撤去が進み、あちこち更地、空き地になっています。元の風景を知らない人には、一見何事もなかったかのように見えますが、やはり大きく変わりました。もともとシャッター通りだったわが町の中心街もあちこち櫛の歯が欠けたような状態で、寂れ感が増しました。

国も県も口先だけ
 依然として、住宅問題は一番の問題のように思えます。私自身も昨年夏からの「みなし仮設」暮らしですが、隣室の家族も「みなし仮設」暮らしです。私たちのように外に仕事を持っている人はいいのですが、老人の一人暮らしなどのような人たちで、建設型の仮設住宅団地と違って、孤立した生活を送っている人たちの中で孤独死する人も出たりしています。
 住宅の全壊・半壊で住むところを失い、建設型の仮設住宅の約四千戸に約一万人、借上げ型仮設住宅(みなし仮設)の一万四千戸に約三万二千人、その他公営住宅等に入っている人も含めて四万四千人以上が、仮設暮らしという状況です。仮設住宅に入らずに、庭先の作業小屋やビニールハウスに暮らしているという人もいます。
 また資金力があって自力で家を再建できる人が家を新築する場合でも、建設労働者の多くが東京五輪などのにわか景気で人手不足で、何カ月も待たされているという話を聞きます。
 また、被災した宅地の復旧事業や土地区画整理事業なども、計画はできても、ほとんどの事業はようやくこれからというところです。
 私も含めて、自力で家を再建できない人たちが待ち望んでいる、災害公営住宅の建設も、十二市町村で計画されていますが、現状では四百六十戸の計画にすぎず、益城町では当初三百戸が計画される予定だったのが六百戸に増えそうです。他の市町村も、現在の計画では足りないのではないかと思います。実際にはまだ設計段階にも入ってないところが多く、一戸も完成していません。わが市でも計画が順調に進んでも、恐らく再来年の初めになるのではないかというような状況です。
 そういうことで、災害救助法で原則二年とされている仮設住宅の入居期間を一年延長することが、先日決まりました。
 東北大震災で被災した宮城、岩手、福島の三県では、延長、再延長と、六年半たった今でも二万人余りが仮設住宅での暮らしを余儀なくされているとのこと。
 政府も県知事もよく「被災者に寄り添う」と言いますが、口先だけです。
 熊本県知事と県議会の自公与党も、あまりの被害の大きさに、復旧・復興に際して、当初は「特別立法」を要望しましたが、安倍政権に断られると、いつの間にか立ち消えとなってしまいました。県議会では特別立法を要求する野党提案を否決してしまう始末です。
 来年度予算の概算要求に際して、使途の自由度の高い「復興交付金」の新設を含む対策の拡充を、地元自治体を中心に要望が出されましたが、国の担当者は「既存の対策で十分」「これ以上のかさ上げは無理」とにべもなかったと、地元紙は報道しています。

東日本大震災と比べて
 復旧・復興事業に対する政府の姿勢は、東日本大震災に比べてかなり差があるのが実際だと思います。
 例えば、東日本と熊本の復興事業への国の補助率は、道路関連が東日本十分の八、熊本が十分の六、小規模住宅地改良や住宅耐震化は東日本四分の三、熊本二分の一などと開きがあります。
 また、災害公営住宅の土地取得に対する補助では東日本大震災では八分の七に対して、熊本地震ではゼロです。土地取得費がネックになって災害公営住宅をどこに建てるかでも住民の要望が通らないケースも出ているようです。
 財政規模の小さな自治体では、起債で当面乗り切っても、将来負担率が増大して、数年後には財源不足が来るのは目に見えています。だから、思い切った復興事業ができないという面もあるのです。
 確かに被害の規模や津波や原発事故など被害の程度では比べものにならないとはいえ、被災した地方自治体、一瞬にして家を失い生活手段で大きな被害をこうむった住民一人ひとりにとっては被害は同じです。
 政府も政府ですが、県民・被災者のために、本当に泥をかぶってでもやる気があるのか。知事の姿勢を疑います。
 「創造的復興」などと聞こえのいいスローガンに便乗し、熊本空港の民営化や「町が分断される」と住民の中に反対の声が強い益城町での県道の拡幅・四車線化などは「いの一番」に進められようとしています。震災の復興と空港の民営化に何の関係があるのか県民にはさっぱり分かりません。
 それ以上に東京五輪なるものに何兆円もの税金が惜しげもなくつぎ込まれることに対して「たかが運動会じゃないか、バカバカしい」という思いがいっそう募るようになりました。
 南海トラフ巨大地震、東南海地震、東海地震、首都直下型地震など大地震は必ず起こると言われています。阪神大震災から数えてみても、五年に一度くらいの頻度でどこかで強い地震が起こっています。また、今年の九州北部豪雨災害に限らず、温暖化の影響もあると思われますが、毎年国内の何カ所かで豪雨災害による大きな被害が出ています。確実に増えていくと思われます。
 こうしたことにどう備え、どう被災者を救援するのか、どう復旧・復興していくのか。自然災害(人災もある)に対して国土交通省にまかせて小手先のことをやるのではなく、一つの省庁を立ち上げるくらいの大きな構えが必要だと感じています。Jアラートなどで必要もないミサイル警報を出すのではなく、本当に一人ひとりの命や暮らしを考えてほしいと思います。


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