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労働新聞 2017年9月15日号 投稿・通信

花は売れず、経費ばかり増える 

農家は苦しくなるばかり

徳島県・農業 沢田 昭二

 私は、二年ほど前にもこの欄に投稿させてもらいました。
 大学を卒業してから、親父が経営していた花卉(かき)農家を継ぎ、かれこれこの道一筋で四十年近く仕事を続けてきました。二月頃の一時期を除いて年がら年中働き、ほぼ休みなしです。妻と二十六歳の長男の、三人で専業で営んでいます。ハイビスカス、シクラメン、ポインセチアなどが主力です。
 いまやっと暑い盛りを過ぎましたが、夏場、ハウスの中での仕事は年々きつくなっています。とくに消毒の作業は大変です。害虫も耐性を持ってなかなか死なないので回数を増やすしかありません。日々なんとかやっているというところでしょうか。
 長男には「三十歳になるまでに継ぐかどうか決めてくれ」と言っています。他にいい仕事はないので本人は決めかねているようですが。

売上げは最盛期の6割
経費高騰で農業収入激減
 売上は一九八〇年代後半のバブルの頃が最盛期で、多い時には五千万円近くありました。しかし、今では売上はその六割、三千万円弱です。それに以前は、所得は売上に対して二五%程度ありました。今は、三千万の売上のうち一五%程度、五百万円ほどにしかなりません。三人が専業で働いていてです。
 最近では、リーマン・ショック後に売上ががたんと落ちました。とくにお歳暮、クリスマス用のギフトなどが落ち込みました。花は景気に大きく左右されるので、逆に農家は景気動向がよく分かる気がします。ここ十年、売れ行きが減ることはあっても伸びることはありません。
 売上に対する所得が減ったのは、あらゆるコストが上がっているからです。影響が大きいのは資材費、運賃、それに燃料費(ハウスで使うボイラー燃油等)です。まず十年前と比べると、鉄製品(修繕用などに使う)が三割も上がりました。二〇〇五年の北京オリンピックの際にグッと上がって高止まりです。
 ビニール製品も一五%程度上がりました。これも大きい。
 運賃も二割上がっています。大阪の花市場に週二回運んでもらうのですが、運送会社はさまざまな理由を言って、運賃をどんどん値上げしています。しばらく前は、排出規制をクリアしていないディーゼル車が大都市圏などに入れなくなったので車を交換したからと言っていました。円安、原油高のたびに値上げが続いています。花は上に積み重ねられないので、その分高くつき、運賃は売り上げ全体の一五%もの支払いになります。
 それから、肥料代も一五%程度上がりました。肥料の中でもリン酸分は輸入に頼っているので、円安の影響が大きいです。農薬も五%程度上がったでしょうか、苗代は花の売れ行きが悪いこともあって、ほぼ変わりません。
 コスト面だけ見ると、以前と比べて年に三百〜四百万円ほど増えた計算になります。ボイラーを焚(た)く燃油代だけは、原油価格が下がればいくらか楽になりましたが、アベノミクスの円安で資材費などはますます上がりました。逆に、昨年前半のようにいくらか円高になっても価格が下がることはありません。間に入っている商社やメーカー、運送会社などが、円安になれば農家、末端に価格転嫁して、円高になったらなったできっちり利益を確保しているからだと思います。
 花農家の立場から見れば、安倍政権がいう「デフレを脱却しつつある」などはまるでウソですね。息子や娘たちの給料の安さや、生活ぶりを見ても分くわかります。農家もこれだけコストが増えて儲(もう)からなくなって、ギリギリのところまできています。消費が伸びるわけがありません。

ハウス建替え時に離農
県の補助金は今はゼロ
 徳島県内では洋ランを作っている農家がいちばん多いのですが、十年前と比べると県内には五十軒ほどあった花卉農家が現在では三十軒ほどになっています。とくにここ一、二年、仲間たちが辞めてしまうことが多くなっています。
 花農家も他と同じで四十歳以下はほとんどいません。今はそれでも働き盛りの五十歳台の人が、六十歳を前にして辞める人が目立っています。そのきっかけとなっているのは、古くなったハウスを建て替えるときです。売上が伸びないし、展望もないのに、また大きな借金をしてがんばるというふうになれないからです。
 ハウスの建て替えには坪当たりで三万〜四万円、一反あたり、ボイラーなどの設備を入れて約一千万円近くもかかります。ハウスは二十〜三十年使えますが、今建て替え時期に入っています。
 かつては建て替えには県から二〜三割の補助金がありました。それが削られて、今は一切ありません。
 国や県の補助金は、新規就農者に手厚くなっていますが、これまでの農家が経営を維持できなくなっているのに、ここは支援をせず、廃業に追い込まれているのです。本末顛倒ですね。花卉農家への補助金は一番先に切られましたが、今は野菜農家にもほとんど補助がなくなっていると、仲間のキュウリ農家が言っていました。
 辞める農家も、これまで借金をやっと返し終えたので、ここらで辞めるという人がいますが、これからは年金も「スズメの涙」で別の仕事も探さなければならず、それはそれでどこも大変ですね。これまで何人か、借金が払えずに、おらんようになった(引っ越しや失踪)人もいます。
 私は農協に入っていないからとくにそうですが、末端の農家は、みな自分の責任で経営しなければならず、市場との関係で生産組合のようなものはあっても、農家の要望をまとめて国、県に要請する組織を持っていません。政府や行政は農家を育てるどころか、経済連携協定(EPA)などで国境措置を緩め、財政がないといって、これまで経営を維持するためにどうしても必要な補助金までなくしています。
 これは花農家に対してだけではないのではないでしょうか。
 農家がおかれている状況の一端を知ってほしくて、投稿させてもらいました。


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