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労働新聞 2017年6月25日号 投稿・通信

家で仕事をさせて残業代カット?!

「働き方改革」の正体見えた

埼玉県・田川 浩志

 昨年も投稿しましたが、私は携帯電話のアンテナ設置などの仕事をしています。
 この業界は「戦国時代」というか、とても不安定で、しょっちゅう取引先が変わったり、吸収合併を繰り返し、その都度、労働条件が変わってきます。
 つい最近も、業績がよい元受け会社で、社長が突然、自分の持ち株を譲ってしまい、別の会社に吸収されてしまいました。吸収した親会社の経営者は、IT(情報技術)関連の若い有名なやり手のようです。そこは、大手企業に人を送る人材派遣と直接仕事をする部門に分かれています。規模も大きく、海外も含めると数千人の技術系の人材派遣会社だということです。
 同じような仕事をしていても雇用形態はさまざまです。私の場合、扱いは自営業者ですから残業代は一切ありませんが、最近正社員としていっしょに働いている若い労働者を見て、「働き方改革」の目玉になっている「残業の規制」と「生産性向上」について「これが実態か」と思い知らされたことがありました。
 彼は中国地方のある県の山間部の出身で、父親は大工でしたが、腰を痛めて働けなくなり、母親がパートに出て何とか食いつないでいるそうです。それを見て「生活が不安的な自営業でなく、技術をもち安定した仕事に就きたい」と思い、工業高校を出て電気技師の資格を取り、関東にあるテレビ局の下請け会社に入りました。技術的な仕事を期待して入ったのだが、スタッフに物を届けるなどの雑用ばかりで、なおかつ、地方のテレビ局は経営が困難で将来が心配なので、やり手社長が経営する親会社に中途採用で入ったということです。
 ところが、正社員で入ったのに、「見習い期間が終わっても、三カ月ごとに契約が続けられるか判断したい」と言われたそうで、「今の仕事がなくなればすぐクビになることはないと思うが、待遇などどうなるか分からない」。安定した給料が約束されるわけではなく、「派遣先によって給料が変わるから」とも言われているそうです。彼は「三十歳代の正社員の平均年収が五百万円あると何かに書いてあった。自分には夢のような金額だ。自分の同級生で一流企業に入った人たちがうらやましい。自分は将来の生活設計ができるような状態ではない」と言います。
 どうやらこの会社は、労働者にきちんとした補償をせず、飼い殺しのようにして自分から辞めるように追い込んでいくらしい。そうやって急成長してきた会社のようです。人材を「カンバン方式」にして少ない人数で派遣を多くすれば確実に利益になります。
 さて、本論の残業規制、生産性向上のことです。ごく最近までの仕事スタイルはこうでした。まず東京にある本社に行って八時半に現場へ向かいます。そして本社に戻ってくるのが六時半頃です。彼の場合、その日の報告書を十一時ぐらいまで会社で書かないといけないので、毎日帰りはほとんど終電です。ところが最近になって、「自分の家から直接現場に行き、仕事が終わったらそのまま家に帰ってよい」となったので、彼は私の家の近くに引っ越してきた。そうすると拘束時間が短くなってよいではないかともいえますが、問題は、今まで会社でやっていた業務報告に対して残業代が払われるかというとどうもそうでもないらしい。結局、政府のいう「労働時間を短くする。同時に、生産性を上げる」という美しい宣伝の実態は、家で仕事をさせて残業代をカットするものなわけです。
 彼には「会社ときちんと交渉した方がよい」と言っていますが、労働組合がありませんから全く歯止めがありません。
 一方で、ここ数年、まったく新卒労働者を採用しなかったのに、親会社の指示で何人か大卒の労働者を雇っています。彼らは毎日コンピュータに向かって何かやっているようですが、情報セキュリティがとても厳しくなっているので、その対応を始めているのかもしれません。
 若い世代の労働者の中に、二極化が進んでいます。底辺にますます大きなしわ寄せがされており、格差が拡大していることを感じる毎日です。


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