労働新聞 2004年11月25日号 通信・投稿

映画紹介
「モーターサイクル・ダイアリーズ」

ウォルター・サレス監督

ゲバラの成長温かく描く

 この映画の原作は、革命家チェ・ゲバラの「モーターサイクル南米旅行日記」である。ブラジルのウォルター・サレス監督は、若きゲバラの優しさと誠実さを、尊敬と愛情を込めて描いている。撮影は史実にそって行われ、彼らもまた南米大陸を縦断した。
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 医学生で23歳のゲバラ(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、ブエノスアイレスでハンセン病の勉強をしていた。友人のグラナードに誘われ、1952年1月4日、オンボロバイクのポデローサ号にまたがり、1万キロを超える南米大陸縦断の旅に出発した。雪のアンデス山脈を越え、アタカマ砂漠を通って、アマゾン上流に出るというルートだ。若い2人はあえて困難に挑んだ。
 カネも泊まるあてもない「無謀」な旅だが、彼らはひるまない。ゲバラはときどき喘息の発作を起こして倒れてしまうが、旅への情熱を失うことはなかった。時にはちょっとした悪知恵もしぼって、食べ物と寝泊まりする場所を手に入れながら、旅を続ける。チリに入ったところでバイクは壊れてしまい、2人はヒッチハイクで旅を続けることになる。
 このヒッチハイクの中で、2人はさまざまな人びとと出会う。土地を奪われた移民労働者たち、迫害を受けて仕事を求めて銅山に向かう共産主義者の夫婦、治療も受けず死を待つ老婆。ラテン・アメリカの人びとの苦しい生活を知ることになる。
 彼らはペルー・アマゾン川奥地にある南米最大のハンセン病の医療施設「サン・パブロ診療所」でしばらく働くことにした。ここでは患者たちは川を隔てた対岸に隔離されていた。彼らはこの隔離に違和感を覚え、慣例を破って手袋なしで握手し、患者たちと交流を始めた……。
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 この作品は、革命家としてのゲバラを描いたものではない。ゲバラが優しくて実直な、普通の若者であることが描き出されていく。2人の青年は、この旅を通じてラテン・アメリカの現実を理解し、旅を終えた2人は新しい人生に向かってそれぞれ力強く歩み始める。心の中で大きな変化が生まれたのだ。その心の変化をていねいに描き出していく。
 当時のラテン・アメリカの政治状況はほとんど描かれていないので、当時の状況をよく知らない私には理解しがたい部分もある。しかし、2人が「人びとのために役に立ちたい」との思いを強くしていくようすはよく理解できるし、共感を覚えた。
 映画では南米大陸の美しい大自然、ラテン・アメリカの音楽や踊りも楽しめる。ハンセン病の患者たちも出演し、ドキュメンタリーのような趣もある。また、各地で出会う人びとの素朴な表情が印象深い。
 ゲバラはキューバ革命に参加し、67年にCIA(米中央情報局)の工作で殺害されてしまう。しかし、ゲバラの人間味あふれる生き方は、今もラテン・アメリカの人びとに親しまれている。
 ちなみに、ゲバラの本名はエルネスト・ゲバラ。この「チェ」というのは人に呼びかけるときに使う「ねぇ」というような意味。ゲバラがよく使ったことから、親しみを込めてチェ・ゲバラと呼ばれている。
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 私たちはインターネットで手軽にさまざまな情報を手に入れることができる時代に生きている。しかし、いくら知識が豊富でも、人は容易には変わらない。現実を見て、触れて、感じて、人は変化し成長していくものだ。そのことが新鮮なメッセージとして、作品から伝わってくる。
 この作品を見た後、政府に見殺しにされた香田証生さんのことが頭に浮かんだ。彼もまた、現実を自分の目で確かめようとして、イラクに飛び込むことを選んだ若者だったのだろう。このような若者がいたことを、日本人として誇りに思う。香田さんの早すぎる死が、惜しまれてならない。 (U)
                            各地で上映中


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