労働新聞 2004年11月25日号 通信・投稿

受験準備に追われる毎日

面接で靖国問題訴える学生

日本語学校教員 松田 寿美

 「先生、6番の問題がわかりません」という金さんの声で目を覚ました。あ、夢だ。
 この時期は、日本語学校の学生たちは受験の真っ最中。当然私たちも仕事に追われる。学生たちの進学先決定から、願書のチェック、志望理由書、入学後の学習計画、卒業後の計画、母国から取り寄せる卒業証明書、成績証明書および証明書の日本語訳、経費支弁が証明できるもの、学校によっては日本国籍を有する保証人などをそろえなければならない。
 志望理由書、学習計画、卒業後の計画などは、まず本人に書いてもらう。出来あがってきたものについて質問しながら、本人の文章を生かし、必要ならば少し手を加える。1クラス20人、この仕事だけでも大変な作業だ。
 最近、入国管理局から卒業証明書、成績証明書が怪しいと思われる学校名の一覧が送られてきた。一覧表に出ているような卒業学校の書類を出してきた学生は注意しろ、ということらしい。しかし、この一覧表が日本語学校だけでなく専門学校や大学等にも回っているとしたら、怪しくない学生まで疑われて、被害を受けるかもしれない。その時は、入管が責任を取ってくれるのだろうか。とりわけ、大学や専門学校に進学しようとしている日本語学校の学生にとっては問題である。
 さて、願書提出に必要な書類が準備できたら、面接の準備だ。面接はよく聞かれる質問を中心に本番さながらに練習する。きょうも面接の練習をした。面接した中国人の学生は、経済学部経済学科を目指している。
 彼は面接の中で、「日本の小泉首相が靖国神社を参拝することは大きな問題だと思います。別に中国は内政干渉しているわけではありません。首相が伊勢神宮を参拝しても何も言わないし、天皇主催の会に出席しても何も言わない。しかし、なぜ靖国神社参拝について言うのか。それは中国に侵略し大きな被害を与えた戦争責任のある戦犯が祀られているからです。これは内政干渉ではありません。そして、日中首脳が行き来をしない現状はお互いの国にとって不幸だと思います」と一気にしゃべった。
 日ごろ無口な彼が話すのを聞きながら、改めて現在の日中関係について考えさせられてた。1972年に日中国交回復して78年に日中平和友好条約が結ばれた。私は当時学生だったが、あのころの周囲の熱気を今でも覚えている。32年前に比べて今の状況は何だろう。以前ある人が「東洋でも西洋でもない日本」と言ったが、今では東洋でも西洋でもない、単に米国の子分だ。
 彼は最後に、「中国にいるときはあまり日本に対する印象はよくありませんでした。しかし、日本でやさしい日本人にも出会うことができて、日本が好きになりました」と言った。
 彼に代表されるように、現在日本にいる就学生、留学生たちはじっと日本を見ている。そして、彼らは日本とアジアの国々との架け橋となり、将来を担っていく貴重な人びとだ。どうか彼らがこの苦しい受験時期を乗り越え、目的を果たし、将来の夢に一歩一歩と前進してほしいと思う毎日である。


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