労働新聞 2004年11月15日号 通信・投稿

これが私の1日の仕事(2)
低賃金と合理化が安値の秘密

生鮮食料品ディスカウント店労働者 
石田 豊治

 私の勤め先のスーパーは農村部の小さな市にあります。同じ市や近隣の市でも、同業種のいくつもの倒産や大型店出店の動きがあります。この夏も、近くのスーパーが閉店しました。隣県からの出店でしたが、1年ももたなかったようです。その前は、地場の中堅スーパーが身売りしました。
 つい先週も、隣の市に大きな店舗のディスカウントストアが出店してきました。この影響は私の勤めるスーパーにも出ており、このところ客数、売り上げともに若干ダウンしています。競合するスーパー間ではいろいろと情報が飛び交い、おもしろくもありますが、また労働者にとっては不安にもなります。
 私の勤めるスーパーは、生鮮品を主力として新鮮で安いものを提供するというスタイルの営業で「市場から食卓へ」をうたい文句にしています。その日に仕入れたものをその日のうちに売ってしまう、在庫を持たない身軽な商売をモットーとしています。聞こえは良いのですが、言い換えれば徹底した合理化と長時間の低賃金労働、従業員の勤勉さと仕入れ業者への買いたたきで、低コストによる商売を可能にしているのです。
 この職につくまでスーパーでは損をして商売をするなどということを考えたことはありませんでした。チラシに入っている超目玉商品も特売用に質を落とした低原価の商品だろうと思っていました。そう思っている人は多いのではないでしょうか。確かにそのような商品も少なくはありません。しかし品質の良くないものや知名度の低い企業の商品ばかりを目玉にしても客に飽きられてしまいます。商いというくらいですからそれではダメです。
 それならどうするかというと仕入れの際、原価をいくらかでも安くしてもらうように交渉するのです。これを業界用語で「条件」と言います。例えば、この商品を特売品として売りたいが、通常より大量に買うので「条件」を出せといったりします。また季節に左右される商品であれば期間限定で安くしろとか時期外れだから安くしろと言ったりします。時には問屋さんに商品がダブついたり、発注ミスでもって行き場に困っているような商品を売ってやるから安くしろとか。安く買いたたいた倒産品を通常原価より安く仕入れて、それをスポット商品にしたりとかの手で商いをするのです。
 商品によっては原価が常に変化するものがあります。卵がそうです。卵相場というものがあり、東京や大阪での相場が全国に影響を及ぼします。卵という商品はスーパーではチラシ商品として特売用の目玉商品の代表のようなものですが、この卵でもうかっているスーパーはそう多くはないと思います。昨年の卵相場は大暴落で、全国的に卵農家がいくつもつぶれたと聞きました。そしてあの鳥インフルエンザが追い討ちをかけました。卵を納入する営業マンはずっと嘆いていました。それが今年は一転して高値で推移しています。とりわけこの夏以降の卵原価の値上がりは驚きです。スーパーの卵コーナーを見てください。今年は高いでしょう。特売を止めたり、特売サイズを小さくしたりしていませんか。今年の卵業界は生産調整しているのではないかと、私は見ています。
 さらに今年は台風の影響をもろに受けた農村部の事態は深刻です。その結果、青果物は高騰し、店頭では驚くほどの高値で並んでいます。
 ほんの数日前、隣県にグループ5店舗目がオープンしたのですが、徹底した合理化の例として食品の店頭に入らないものを保管する(バックヤードという)冷蔵庫は、本店の中古品を持ってきたかなり「ボロ」ですよと聞きました。またこの新店舗のトイレットペーパーの購入のことで社長から電話が入っていたのを事務所で聞いたことがありました。経営者は実に細かい支出にまで気を配るのには、あきれるやら感心するやらです。
 細かい支出で思い出したのですが、入社直後専務(社長の奥さん)が私に、事務所の前の蛍光灯を指差して「私にはこの蛍光灯のあかりがまぶしいのよねぇ!」と言ったことがあります。今はこの蛍光灯は半分に減っています。
 5店舗目の開店に際しては私の勤める店が前線基地となったので、さまざまな交渉ごとや求人募集のことを見聞きすることがありました。出店する県は最低賃金が低く、それに合わせてこれ幸いと時給を決めたことや、応募者が集まらず、何度となく募集をかけたが開店した今も人手が足りずに各店から業者からの応援、派遣社員でやりくりしているようすが伝わってきています。応援に出している部署はただでさえ人手が足りないのに、いっそうの労働強化となっています。
 「良いときがあれば悪いときもあるさ」と言っていたのは遠い昔。今、働く者にとって良い時などはありません。何もせず待っていても世の中妙な方向へいくばかりです。以前、労働新聞でスーパーに勤める人からの投稿記事がありましたが、いずこも同じという思いで読んだ記憶があります。日常の生活に流され埋没しそうになる自分を励まし、踏ん張ってできることを一歩でも半歩でも先に進めるよう精一杯やっていきたいと思っています。自分のためと思ってはじめた活動を、今は子供たちのためにも…。  (完)


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