労働新聞 2004年10月25日号 通信・投稿

書籍紹介

本山 美彦著
「民営化される戦争 
21世紀の民族紛争と企業」

歴史の真実に迫る真摯な作業

 本書は、イラク戦争とこれへの自衛隊派兵、あるいは金融グローバル化と加速化する小泉改革政治という最近の事態の中で、大規模に宣伝され、人びとがあたかもそれが「自然の流れ」、あるいは抗しがたい「大義」として受け入れさせられている公式の見解や事件評価について、その裏側で展開される米国と世界の支配者たちのどん欲な意図と画策を、その人脈から構造にまで迫って明らかにし、渾身(こんしん)の抗議を突きつけたものである。
 本書の1から4章は、いまや世界での米国の侵略戦争を支えるまでに巨大化した軍事請負企業の実態が明らかにされる。そこではブッシュ、チェイニー、ラムズフェルド、そしてベーカーらと連なる戦争放火者たちとこの現代の傭兵企業との、まさに心身一体の関係も暴露される。
 第6章以降は、「グローバリズム」の名の下で進められる米国巨大金融資本の世界支配の策略とその秘密が暴露される。とりわけ、第6章「日米投資イニシアティブ報告書に見る米国の対日株式交換圧力」、第7章「ブッシュのイラク攻撃決意とユーロ」は、わが国優良企業を米国資本に売り渡す小泉・竹中らの改革政治の実態を明らかにし、巨額の為替介入で米ドルを支え続けるわが国金融政策の売国性を、日米の政府間交渉や金融実務の中から暴き出す。
 第5章の「サダム・フセインの世界経済史的意義」は、「悪」と決めつけられたイラクとフセイン政権の現代史の中で正当な位置付けを図った注目すべき論考である。
 著者は元国際経済学会会長。「売られるアジア」など多数の著書で知られる著名な経済学者であるが、「この世でなにが悲しいかというと、自分がいろいろのことを知りながら無力のためにそれをどうにもできぬことほど悲しいことはない」というヘロドトスの言葉を引用して本書をはじめている。あとがきには、アカデミックな仕事をしなければとの焦りに苦しめられつつ、『現場の証言』の責務だけは果たしておきたいと、必死の思いで本書を書き綴った、との著者の独白がある。
 逆流に抗しても、真実を伝えたいとする稀有(けう)な知識人の勇気と憂国の情に、心からの敬意を表さざるを得ない。しかし、評者はあえて、全世界で高まる反米の中で、没落を早める米国の姿にこそ、歴史の行き着く先に対する確信を見る、と申し上げたい。 (A)


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