労働新聞 2004年10月15日号 通信・投稿

許せぬ
介護保険制度見直し案
弱い者いじめに怒り心頭

福祉ボランティア 田村 宏

 少し長い文章ですが、がまんして最後まで読んでください。介護者の切実な声が聞こえてきます。

【怒・その1】
 軽度の人を家事援助の対象から外すのは、弱い者いじめだと思います。私の祖母は要介護1で1人暮らし。足腰の痛みを我慢しながら、布団の上げ下ろしから掃除、洗濯や3度の食事も何とか1人でがんばっています。
 週1回の家事援助でヘルパーさんに来てもらうのが唯一の楽しみです。普段手の届かないところを掃除してくれたり、いつもと違う手料理を談笑しながら食べたりして、人と接することが少ない祖母にとって有意義なひと時です。
 時にはいっしょにリハビリ体操をしたり、健康相談にも乗ってくれています。この制度の見直しでヘルパーさんが来れなくなると思うと、祖母もショックで寝込んでしまいそうです。

【怒・その2】
 86歳になる祖母は、要介護度4でほぼ寝たきりに近い状態です。それでもオムツは着けずに、ベッド脇のポータブルトイレに移乗もできます。もちろん少しの介助は必要ですが。
 来年の制度の見直しでは、利用者負担を現行の1割負担から2〜3割に引き上げる案が出ているとのこと。わが家では支給限度額30万円をすべて使い切って足らない月もあります。1日3回の身体介護と家事援助が入浴や便失禁などで時間延長したりすると、そのオーバー分は100%の自己負担となります。
 また、わが家の願いは祖母を完全な寝たきりにさせないことです。そのために訪問リハビリや訪問看護を希望しても、支給限度額を超えてしまい経済的に無理があります。現状でも、医療費や保険料それに食費や生活費を加えると月額10万円。遺族年金では到底まかないきれません。
 兄弟でローテーションを組んでせいいっぱい支えていますが、利用料が3割も引き上げられると、必要な援助を削らざるをえず家族介護の負担がますます増えるばかりです。

【怒・その3】
 いま、施設入所(特養)を勧められています。家族の負担や経済的なことも考えて、とりあえず申請しました。待機者が多く入所できるのは1年先だとのことです。しかし、元気な高齢者が集団管理の中でたちまち寝たきり状態になったことを聞かされると、本人のためにも住み慣れた家で、との思いは捨てきれません。以前にもショートステイを利用しましたが、たった3日でボケと徘徊(はいかい)が進行して、オムツ姿で帰ってきたという苦い経験があります。今回の見直し案は在宅介護でと願っている家族にとって、実態を考えない改悪そのものです。

【怒・その4】
 その特養のことですが、利用料が大幅に値上げになるらしいですね。居住費や食費を全額自己負担にするとのことです。先日の新聞では1人当たりの入居者の負担は現在の2倍強の10数万円になると書いてありました。夫と私の年金は月に13万円ほどです。私の生活もあるのに、これ以上どう切り詰めたらいいのか、とても不安です。私ら貧乏人は安心して老後が送れないということでしょうか。

小規模事業所にとって死活問題

 これは先日行われた「介護者との懇談会」の中での参加者の発言です。この深刻な介護の実態を、皆さんはどう思われますか?
 財政難を理由にした今回の見直し案では、本当に必要なサービスが切り捨てられ、家族の介護負担が増大することが避けられません。介護者が日々の介護に疲れ自殺に追い込まれたり、高齢者への虐待や暴力が日常化している現状に、目をそむける政策です。
 この懇談会に参加したケアマネジャーは「サービスを提供する事業者にとっても、この制度見直しは死活問題です。ヘルパー派遣事業者にとって家事援助は大きな収入源。それが大幅に削られることで営業の存続も危ぶまれ、これまで支えてきたヘルパーは職を失うことになります。また、介護機器のレンタル業者や配食サービス業者などの介護関連事業者も、運営に危機感を募らせています」と、事業者側の立場を代弁してくれました。
 まさに大手大企業だけが生き残り、NPO(非営利団体)や小規模事業者は淘汰(とうた)される現実が、目前に迫っています。
 また、地方自治体にとってもこの問題は深刻です。わが市でも「現状のサービスを維持するには自治体の負担増は避けられない」と懸念を表明しました。介護保険料や利用料の滞納額も増えることが予想され、三位一体改革と相まって福祉サービスの自治体間格差がますます広がります。
 福祉はだれもがどこでも同じサービスを受けられることが基本です。そのためにも、先ず財政改革ありきの画一的な審議ではなく、福祉の特殊性と利用者の実態に即したものにならなければ、決して高齢者の幸せのためにならないと思います。

利用者の立場に立つ議論を

 来年の介護保険制度見直しに向けて、厚労省は今年の12月には改革案を取りまとめたいとして審議会での議論を急がせています。障害者支援費制度を介護保険制度に統合する案も焦点になっています。財政確保のために本質的に違う制度の統合は混乱を引き起こすだけです。また、保険料徴収年齢の引き下げも大きな問題です。
 私たちは利用者の立場に立って、今回の改正論議が決して高齢者や障害者のための見直しにならないことを国や自治体に強く主張しいくことが必要です。「懇談会」での内容を受けて、もっと幅広くケアマネ・ヘルパー・事業者・社協職員などにも参加してもらい、再度勉強会を開くことを申し合わせました。皆さんのご意見をお聞かせください。


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