労働新聞 2004年10月15日号 通信・投稿

私は派遣、あなたは請負?

みんな同じ労働者だ
さまざまな所属入り交じる職場で

派遣労働者 大川 直也

 全国の読者の皆さん、こんにちは。
 私は約1万人の労働者が働いている大工場に勤務しています。仕事は倉庫番で、半分事務で半分は現場仕事です。
 私はこの工場の正社員ではなく、その工場の社員以外のすべての労働者を指す「社外工」の1人です。私の工場では、約1万人の労働者の内、約4割を社外工が占めています。
 社外工には、工場敷地内で別の作業場をもち操業している下請け会社の労働者もいますが、大多数を占めているのは派遣労働者と業務請負の労働者で、私は派遣労働者です。

業務請負と派遣労働 改定重ね聖域なくなる

 ところで皆さんは派遣と請負の違いについてご存知でしょうか。
 業務請負は、一定の複数労働者がグループとして業務委託される事業所(勤務地)に送り込まれ、委託業者のリーダーの下に仕事をします。勤務地の会社の担当者はリーダーを通じて仕事を発注します。場所が同じですが会社としてはまったく別々で、仕事の流れも違います。こうした仕事のやり方は、以前から多くの会社でも見られた形態であり、違法ではありません。
 派遣労働者は、派遣元(直接雇用されている会社)から派遣先(勤務している会社)に派遣され、社員と同じように働きます。勤務条件も社員と同じで、仕事の上の業務命令も派遣先の同じ上司から出されます。
 派遣労働は、従来は専門職に限られていたので、最近まで労働問題として浮かび上がることがありませんでした。しかし日本経済の低成長が長引く中、企業がコスト削減に走り、「使い捨て自由」の派遣労働が専門分野以外にも広がる法律が変更されました。
 その結果、業務請負と派遣労働は、法律上は線引きがあっても、実際の労働現場では両者の境界線がとてもあいまいになっています。
 派遣労働法が施行されたのは85年です。当時、専門業種では「テンプスタッフ」などといって派遣労働が広がっていたため、実態に合わせて派遣労働と業務請負を区別し派遣労働を公認するための法整備でした。
 しかし、これ以降「偽装請負」形式の違法派遣が広がっていきました。特に、99年の労働者派遣法「改正」で労働者保護についての多くの新たな規定が導入されたことと、また受入れ企業にとっては不便な「派遣期限を原則1年とする」という規定が設けられたことが、労働者派遣法の適用を逃れる目的で「偽装請負」の形式の横行に拍車をかけました。
 工場での各種作業、コンピュータ関係の作業をはじめ、業務請負形式での労働提供のかなりが「偽装請負」と指摘されています。「改正」派遣法が企業側にとって使いづらい面があったため、今年3月、再度法律改定があり、一般製造業種への派遣解禁や26専門業種での期限撤廃などの大幅規制緩和が行われました。もはやごく限られた業種以外派遣労働が入り込めない領域はなくなり、派遣労働者の総数は02年度の調査で213万人に達しているとのことです。

請負から派遣へ 使い捨てに変わりなし

 私の職場には古手の社外工のグループと比較的新しいグループがあります。古手のグループは社員と同じ事務所で同じ仕事をしているため、最初は社員なのかと思ったほど、まったく見分けがつきません。
 最近、職場で半年の間に2回も席替えがありました。というのも、私の職場では長い間偽装請負が常識のようにおこなわれているため、社員と社外工の仕事の実態ははまったく一体化しているので、(労基署対策として)せめて席を分けて見かけだけでも社員とは別の指揮系統で働いているように見せるために、社員の席とは別のところに簡易事務所を設置したというわけです。
 しかし、古手の人たちはもともと正社員と同じ仕事をしていたため、職場が離れていると何かと都合が悪いらしく、最近また席替えが行われ、元の席に戻っていきました。「法律上の問題とやらはどうしたんだ」と思ったら、「もう手続きが済んだから」ということです。つまり、席を分けている間に派遣元の会社が派遣事業の許可を取ったということなのです。従って、彼らは請負から派遣社員に変わりました。
 こうして古手の人たちが晴れて請負から派遣に変わり、会社にとって法的な問題がクリアされたといっても、彼ら自身の労働上の問題がクリアされたわけではありません。
 例えば、派遣受け入れ期間は一般労働者の場合3年が限度(本年3月改正)ですから、3年後には別の職場に移るか、派遣先企業が雇い入れなければなりません。その辺はどのように説明されているのでしょうか。仕事は社員並みにこなしている彼らですが、しょせんは社外工なので不満はあるはずです。
 先日、私が所属している部署(人員約100人)が来年には丸ごと事業所の外に移転する計画が発表されました。独立企業として分社する計画です。分割ですから当然合理化が出てくるでしょう。そのとき最初にリストラの対象になるのはやはり使い捨て自由の社外工である可能性は高いのではないかと思われます。彼らの口からも「この職場が移転するときは解雇かな」と、冗談交じりに、時々本音のような言葉が漏れてきます。

所属は違えど労働者は団結できる

 派遣会社のホームページを見ると「企業と働く人のニーズをマッチングさせるのが派遣会社の仕事です」とか「自分のライフスタイルに合わせてお仕事をしたいあなたをしっかり支援します」などという調子のいいうたい文句ばかりです。
 しかし、派遣で働いている人の大多数は、やむをえずこうした仕事のスタイルを選択していることは明らかです。
 派遣、請負、常駐とさまざまな労働者で成り立っている私の職場です。それぞれに労働条件が違いますし、派遣社員の場合は、派遣先が雇用主ではないことで、事態は複雑です。労働者の団結を、こうした壁がさえぎっています。
 しかし、所属の違いはあれど、労働者という立場は同じです。これを信じて、今年中には何かのかたちで労働者を組織しようと、今じっくり作戦を練っているところです。


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