労働新聞 2004年9月25日号 通信・投稿

外注化が進む出版業界
単価はバブル時の半分

徹夜でのやり直しもザラ
もっと人員を増やせ!

出版労働者 吉住 早紀子

 私の勤めているのは、業界用語で「編プロ」(編集プロダクション)と呼ばれる会社です。
 知っている人も多いと思いますが、ごく1部の大手を除き、ほとんどの出版社が発行する書籍・雑誌の制作は、外注されています。週刊誌でも、連載記事のいくつかはそうなっていて、外部の「編プロ」が企画・取材・制作の大部分を行い、定められた形式のデータで出版社に入稿するのです。
 出版社からすれば、読者の「反応の思わしくない」企画はすぐに取りやめにするというような、「機動的」な編集が可能になりますし、「1ページ2万円」というような単位で注文するので、面倒な取材も必要なく、内部制作よりも経費がかからないのです。
 逆に、「編プロ」の方は大変です。ただでさえ、「活字離れ」で書籍類の売り上げは下がっているし、出版社が1つ倒産すれば、数十人単位の編集者、関連のライターなどが市場に放り出されるわけで、出版社からすれば慢性的な「買い手市場」です。
 当然ながら、ページ当たりの単価は、年々下がっています。パソコン系雑誌の場合だと、ページ単価は、IT(情報技術)バブル時代の半分以下です。あれから5年も経っていないのに、この変化には驚きます。
 逆に編集者の仕事は増える一方で、ライターへの依頼、原稿の整理、校正、パソコンを使ったデータの制作まで、一通りの工程を管理、手配しなければなりません。企画も自分で立てて、出版社に売り込むのが普通です。ネタを出しても、その仕事が回ってこないこともあります。ライターさんに企画のイメージを十分に伝えることが大事です。締め切りも厳守してもらわなければなりません。必要な資料の提供や、請求事務もあります。
 最後のデータの制作では、徹夜はザラで、原稿の過不足によってはデザイナーさんやライターさんに無理も言わねばなりません。その段になって、相手に「できない」と言われた場合には、ケンカさながらの「押し付け合い」です。
 そんなこんなで、やっとデータが完成しても、出版社の担当者から「やり直し」を命じられることも少なくありません。出版社の直接の担当者がひっくり返すことはあまりありませんが、その上司になると、文字通り「容赦なく」です。筋から言えば、さっきまで「それで進めてくれ」と言っていた出版社の担当者の責任だと思うのですが、「イメージと違う」とかいう、抽象的な理由で「ダメ出し」されるのですから、たまりません。何度「もう辞めたい」と思ったか、泣きながら自分でパソコンに向かい、孤独な再編集作業を行ったか、数えきれないほどです。
 それでも、完成・印刷があがって、自分の携わった本が店頭に並ぶと、ふと「やりがい」めいたものを感じてしまうのですから、うまくだまされたものです。
 以前、私が編集したムック(季刊の雑誌のこと)がよく売れ、そこで取材した会社の売り上げまで大きく伸びるということがありました。その会社からは、出版社に「感謝状」が送られたそうです。
 でも、ちょっと待って!それって、本来、私たち「編プロ」がもらう権利のあるものじゃないでしょうか。もちろん、紙切れ一枚でどうということもないのですが、それで、そこの出版社が「単価を上げてくれた」とかという話は、聞いたことがありません。もちろん、私の給料も変わりなしです。
 出版社は「社名を貸してる」というようなつもりなのでしょうが、仕事をこなしているのは私たちです。出版社に対しては「単価を上げろ」「面倒な企画ばかり押しつけるな」と言いたいです。
 それに、うちの社長にも言いたい。「もっと出版社の横暴と闘え!」「落ち着いて仕事ができるように、人員を増やせ!」と。いつまでもこんな状態なら、プロ野球選手会みたいに、ストライキに突入するぞ。


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