労働新聞 2004年9月15日号 通信・投稿

私の倒産・整理体験談

結局労働者は使い捨てか!
同じ境遇の人に送るエール

繊維会社労働者 吉田 浩司

 私の勤めている会社が会社更生法の申請(いわゆる事実上の倒産)をしてから、10年が経過しました。会社はなんとか再建にこぎつけましたが、この10年間の私の身辺のことを述べたいと思います。


 私の会社が倒産したのは、ちょうどバブル期の絶頂を過ぎたころです。バブル期に多くのグループ会社をつくって、それらの会社がいずれも立ち行かなくなったことが原因です。
 倒産はまったく突然のことでした。社員のだれもわからないうちに夕方突然発表されました。
 それまで倒産という言葉は自分の身には関係ないものと思っていただけにショックを受け、目の前が真っ暗になりました。明日からどうしたものかと思ったものです。

倒産、いきなり容赦ない整理

 会社が倒産すると、まず保全管理人という弁護士がやってきます。それがリストラが始まりました。
 まず中間管理職(課長クラス)の指名解雇です。課長クラスの人間といっても、一般社員より若干給料が多いだけで、実際は何の権限もない人ばかりです。何人もの課長が涙を流して会社を去ってゆきました。「結局自分たちは使い捨てに過ぎないのか」とある課長は言って悔しがっていました。一方でその上の部長、役員クラスの人間はだれ一人としてそのようなことはなく、みなひどい憤りを感じていました。
 裁判所の手続きが進む中で、次に管財人という人たちが会社にやってきます。この管財人は会社や労働者にとっての味方ではなく、債権者のために働く集団です。
 彼らがまず手がけたのは、工場の閉鎖、希望退職の募集です。
 組合は同盟系の組合でしたが、がんばって若干の割増退職金がもらえるようになりました。
 私の周りの多くの人が会社に見切りをつけて、わずかな退職金をもらって会社を辞めてゆきました。工場での希望退職の募集といっても、本社工場は閉鎖だし、別の工場に行けといっても事実上の解雇です。工場の人はほとんどの人が辞めてゆきました。
 私自身について言うと、会社に残っても先行きが分からないし、希望退職の募集に応じようかと考えましたが、経理関係の仕事をしていて内情を知っていたし、最後は決算資料を作って見届けようと思い、結局は会社に残りました。
 倒産した会社で仕事をするというのは、結構厳しいものです。
 何が厳しいかというと、何よりも収入の面です。もともと給料が安い会社で、勤続20年で手取りがわずか17万でしたが、それでもボーナスは50〜60万円ぐらいはもらえていました。今は1カ月程度しかありません。
 人も会社の儲けになる人間(営業マン)は大事にしますが、私のような事務職の人間は冷遇されるばかりです。給料はまったく上がりませんし、人だって増やしません。一人で何役もの仕事をこなさなければなりません。バタバタして仕事の効率はあがりません。
 そうこうしているうちに、私のいる事務部門もリストラが始まりました。
 はじめに、管財人を出している会社から人が送り込まれてきました(定年間際のやる気のない人、それでいて給料は高い人ばかりでした)。管財人グループはその人たちを大切にし、私のような倒産前からいて会社の内情をよく知っている人間はうっとうしかったのでしょう(管財人を出している会社に倒産の原因があったからです)。
 そしてついに、私と同じような倒産前からいる事務部門の人間は、全員配置転換されました。残ったのは、管財人グループが送り込んだ人と、何も知らない若手の人間です。
 私は本社の事務所から追い出され、近県の倉庫管理の仕事をやらされ、二年半寮住まいになりました。そして二年前に、また突然配転を言い渡されて、さらに遠くの工場の事務所で働くようになり、今にいたっています。
 この間に嫌がらせのようなことはたくさんありましが、めげずにがんばっています。
 振り返ってみると、倒産前にいた事務部門の人間で会社に残った人間は私ともう一人だけです。会社が倒産したら会社の再建ができても会社に残るのは三分の一だと以前聞いたことがありますが、それ以上の人の減り方です。私のように営業部門でない人間をひどく冷遇するからです。

仲間の激励でがんばるぞ!

 私の勤めている会社は、表面的には再建が終わっていますが、この先どうなるかわかりません。管財人を出した会社が銀行から借入金の返済を求められているからです。
 しかしどのような状況になっても、私はがんばり抜く覚悟です。励ましてくれる仲間たちがいるからです。
 今、銀行が生き残りをかけて融資先企業の「整理」を進めています。銀行の「整理対象」となった会社には、倒産か大幅な合理化が待っています。
 いずれにしても、労働者は会社を追われます。待っているのは、再就職もままならないひどい雇用市場だけです。
 各企業は史上空前の利益をあげたとのマスコミの報道を耳にしますが、私のような倒産した会社に身を置く者としては、そのようなことは信じられません。「会社が利益を出した」といっても、それは合理化という名の首切り、配置転換をした結果で、そこで働く労働者者には何の利益もありません。

 倒産した会社で仕事をするのがどういうものであるか、どういった状況に置かれるのか、そのことを知ってもらいたい…今、銀行による企業の整理淘汰が進むなか、私と同じような状況に置かれる人が日本中にあふれています。その人たちにがんばれ、同じ状況の人もいるのだということを知ってもらうためにペンをとった次第です。


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