労働新聞 2004年8月5日号 通信・投稿

差別と偏見を生む入管行政
共生のための留学生政策を

サッカーアジアカップに思う

田中 葉子

 現在、サッカーのアジアカップが重慶など中国各地で開催されている。試合会場のサポーター(観客)はこぞって日本の対戦相手を応援し、日本がゴールしても拍手もなく静まり返っているということだ。
 日中国交回復から32年が過ぎ、経済的にも関係を深めているが、中国の人びとの日本を見る目は、このサポーターの態度に象徴されている。
 このことを私たちは、靖国神社参拝を止めない小泉首相や、わい曲した歴史観を公然と広めようとする動きなどに対する、中国の人びとの率直な気持ちだと受け止める必要がある。

中国人を犯罪者あつかい、「国際都市」東京の警官

 このような日本の姿勢は、国内にいる中国の人びとにも向けられている。
 私は都内の日本語学校で教師として働いているが、昨年秋以降、東京において外国人、とりわけ中国人に対して警察の取り締まりが厳しくなったことを痛感している。私の学校の学生たちの中にも、バイト帰りに駅などで警官から呼び止められ、無礼な態度で外国人登録証の提示を求められ、さらには財布の中やかばんの中まで検査された人が多くいる。たまたま登録証を携帯していなかった学生は、交番まで連れて行かれる。翌日教員が交番まで迎えに出向くということがたび重なった。
 もちろん登録証携帯は義務なのだが、始めから犯罪者のような扱いをしている警官に対して、われわれ教師や国際交流を熱心にやっている人たちからは「人権問題ではないか」という声が上がっている。また、当事者である学生たちからは「日本では外国人は夜中に出歩いてはいけないのか」「アジアからの学生を犯罪者だと思っているのではないか」「中国人は出て行けということか」という声が出ている。東京に「国際都市」と冠するのもはばかられる思いである。

差別的な入管の中国人学生のあつかい

 同様に、入国の際の中国人に対する扱いも、昨年秋以降は差別的な度合いを深めている。
 日本に学生が入ってくる時、まず学校が海外で学力試験、面接、保護者の経済力調査を行い、合格者を決める。その後、入国管理局(入管)に在留資格認定証明書を申請し、許可されればビザの発給を受け来日し、入学する仕組みになっている。
 日本語学校に通う学生は就学生、専門学校や大学に通う学生は留学生と呼ばれ区別される。就学生には学校へ通う交通費に学割は適用されないし、奨学金は留学生と比べれば無いに等しい状況である。
 昨年11月、入管当局は突如として、犯罪の多発や不法残留者の増加を理由に、中国、ミャンマー、バングラディシュ、モンゴルからの学生に対して、入出金記録のある資産形成を記録した過去3年間の資料など、他国の学生より詳細な書類を求め、厳格に審査すると通達してきた。
 まったく突然だったこともあり、今年1月の入学希望者、とりわけ中国の入国希望者の9割は在留資格認定が不許可となった。4月生の場合も同様で、在留資格の認定率は前年の79%から46%に激減した。特に中国人は73%が認められず、不認定者の94%を占めた。
 こうしたことを受け、日本語学校は現在、中国での募集を避け、アジアの中ではインド、ネパール、インドネシア、スリランカ、ベトナムといった国々での募集を強めている。そしてその国の学生にはほぼ100%の許可が出ているのである。私たちから見ると異常な事態である。
 日本語学校を卒業して、大学や専門学校に進学する際にも入管の審査があるが、ここでも中国人に対する差別が働く。
 昨年、入管から各大学や専門学校に対し、上記4カ国の学生に対して審査を厳しくするよう指導する通達が出された。
 その結果、ある大学では、専門学校の授業を2年間1日も休まなかった出席率100%の非常にまじめな学生で、かつ日本語能力1級の資格のある中国人学生を不合格とし、出席率80%で日本語能力2級も持たないスリランカの学生を合格とした。また、ある都内の大学は私の学校に「推薦枠の中に中国人は入れないでほしい」と密かに言ってきた。理由は、留学生の中で中国人の占める割合が多いのでバランスをとるためだということだったが、明らかに当面中国人は入れたくない態度だった。
 犯罪は許されることではないので、入国審査を厳しくすることにも必ずしも反対ではない。しかし、厳しくするのであれば、特定の国々に対してではなく、どの国に対しても同様にするべきだ。このような状況は外国人、とりわけ中国人に対する偏見と差別を助長する以外なにものでもない。
 日本がアジアの中で尊敬され信頼されるためにも、しっかりと地についた留学生政策を期待したい。そしてその基礎には、日本が米国一辺倒の政策や協力、強調するのではなく、アジアの国々との共生を実現していく姿勢が求められるのではないだろうか。


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