労働新聞 2004年7月25日号 通信・投稿

ハンバーガーはおふくろの味?

マックワールドの怪

秋田 伸介

 先日、見事にアテネ五輪出場を決めた女子ホッケーチームに、あのマクドナルドがハンバーガー食い放題の「支援」をするという、マスコミ報道がありました。
 思わず「マジヤバイ!」と思いました。3食あんなモノを食ってたら、勝てる試合も勝てなくなってしまう。確かに女子ホッケーチームのマイナーさには同情すべきで、他にまともなスポンサーはつかないのかと、怒りが湧いてきます。せめて永谷園(高見盛にあんなに懸賞金つけるのなら、何とかならない?)のお茶漬けのほうが、よっぽど良いと思うのです。
 諸悪の根源たる規制緩和の波に乗り、全国どこの町に行ってもファストフードのチェーン店ばかりという、一時飛ぶ鳥を落とすほどの勢いのあったマックを始めとするファストフード店も、さすがにグローバリズム批判の高まりと軌を一にして、今や落ち目の三度笠と相成っています。
 今回のハンバーガー食い放題「支援」は、こうした落ち目のマクドナルドの巻き返し策のようですが、そうは問屋が何とやらでしょう。こんな事を思ってしまうのは、実は当方マクドナルドで働いていた経験があるからなんです。そこでマクドナルドの実態の一端を紹介したいと思います。

◆店長も「マズイ!」

 皆さんはマックのハンバーガーを食べたことがありますか? 「おいしい!」と思う人はいないとは思いますが、いたとすればそれはたぶん子供のころから食していた人でしょう。マックの戦略にはまった方とお見受けいたします。なにせマックの戦略は、子供にいかに食させるかということだからです。子供のころにハンバーガーを食すると、何とそれが「おふくろの味」になるということなのだそうです。子供に食させるためには、おもちゃがポイント。おもちゃに釣られた子供は、「はい、ソレマデヨ」となるのでございます。
 大人になってから初めて食した方は、みな一様に「マズイ!」と言うのです。なにせマックの店長でさえ、昼休みになるとそそくさと何処かに昼メシを食いに出て行き、決してハンバーガーなど食しないのです。はっきりと「マズイ!」と言う店長もいるのです。私はこの耳ではっきりと聞きました。あのまずさは愛社精神にも勝るものなのです。

◆これがビーフ100%?

 ハンバーガーに挟まっている肉らしきモノは、マックではミートパティと呼んでいます。カチンカチンに凍った10センチほどの丸い怪しげなピンク色した物体を見て、これがビーフだと思う人はまずいないでしょう。それが入っているダンボール箱には100%ビーフと確かに書いてはありますが。これは何だろう? と必ず思うはずです。
 このミートなるものを鉄板の上に置き、上からプレスして焼き上げるのですが、焼き上がった時の何とも言えぬ「モワァ〜」とした臭いには、思わずのけぞってしまいます。これをトレーに入れてストックしておくのですが、15分過ぎたものはすべてゴミ箱行きになるのです。これ、皆さん知っていますか? 
 なぜゴミ箱行きかというと、「それ以上時間がたてばジューシーさが失われ、おいしく食べられない」というのがその理由ということだそうです。私に言わせれば、焼き立てでも1時間過ぎていようが同じようなものなのですが、ともかくそういうことになっているのです。まあ15分も過ぎれば、食うに耐えないモノということを、マック自身が認めているということにはなります。
 いずれにしても毎日大量に捨てられるハンバーガーですが、それでももうかるというのだから参ってしまいます。一体あのハンバーガーの原価って何円なのか? ビーフ100%ってそんなに安いものなのか! その秘密は、生産と流通のしくみさえ変えた、徹底したコスト削減と超低賃金労働の上に成り立っているのですが、思わず考えてしまいます。

◆社員5人、バイト45人

 マックの急成長を支える大きな要素の一つは、その労務管理にあります。50人ほどの店舗では正社員が4〜5人、あとはすべてアルバイト(数人のパートとバイトの高校生)です。時給700円のマックワールドです。
 社員は管理業務で、現場はほとんどパートとバイトで回っているのです。おなじパートやバイトといっても「階級」があるのがミソで、「クルー」「トレーナー」「スター」などと呼ばれ、時給も50円〜100円きざみで差が付けられています。でもほとんどが時給七百円なのです。現場で働くこれらの人は、決して社員にはなれないのです。
 主力は高校生です。お小使い稼ぎの高校生もいるけど、多くは生活の足しにしているのが実際なのです。見た目とは違って重労働、その割には時給が安いということで、定着率の悪さはピカイチです。
 働く日や時間は自己申告制ということに一応はなっていますが、これも実際はウソです。マックが忙しいのは、土日と祭日だけですので、その忙しい日だけこき使われるということになっているのです。
 特に日曜日の朝から昼時にかけては、現場の「生産ライン」は蜂の巣を突っついたような有り様になります。体力十分の高校生もさすがにグッタリするほどになります。

◆異常な殺菌で「安全」

 マックでは手洗いは30分に1回など、商品の安全には細心の注意を払うことになっています。これはまあいい(実際は忙しくてそんな暇さえないのだが)として、例えばトマトを使う商品があるのですが、その取り扱いには絶句してしまいます。
 普通ならヘタを取ったトマトをきれいに水洗いすると思うのですが、何とその後に「殺菌液」(素手を入れてはいけない)にドップリと浸けておくのです。こうするとまったくの無菌状態になるという、恐ろしいものなのです。無菌状態だから安全なのだ、決して食中毒など発生しないのだということらしい。主婦パートの人が「これはチョット…ウーン…」と言ったまま黙ってしまった姿が、今でもありありと目に浮かんできます。

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 マックの実態のほんの一端を紹介しましたが、話し始めると尽きませんので、この辺にしておきます。なおマックをはじめとするファストフード業界についての詳しい実態について関心のある方は、『ファーストフードが世界を食いつくす』(エリック・シュローサー著・草思社)という本の一読をお勧めします。


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