労働新聞 2004年7月15日号 通信・投稿

若者も中高年も厳しい雇用情勢

国は雇用事業に本腰を入れろ

来春まではキャリアサポーター
高卒者の就職確保が仕事

横川 満寿夫

 去年5月、30年近く働いた製紙会社の技術職を辞めました。コストダウンのために「残業ゼロ」というのが会社の方針になったのですが、実際は、仕事が夜遅くまでかかっても残業代が出ないという状況が続きました。残業を認めてもらおうとかけあったのですが、だめだったことがきっかけで、退職しました。統合失調症の娘が入退院を繰り返していていたので、彼女の世話をしながらその関係で仕事でも見つかればと思ったのです。
 しかし、福祉作業所の仕事はあくまでボランティア。はじめは失業保険もあったのでなんとかなりましたが、年金も納めなくてはならないし、民間病院で働いている妻の負担にもなってしまうので、しばらくハローワーク通いをしました。
 ところが、50歳以上はほとんど仕事がない。たまたま国から県が請け負っている雇用促進事業の一つで、キャリアを持った失業者の経験を活用して高校生の就職対策を行うという「キャリアサポーター」という仕事がありました。面接を受けて採用され、県立の工業高校に配属されることになったのです。

◆県下の企業をまわり新卒者の採用依頼

 この1カ月間は、とにかく、卒業する高校生たちの就職口の確保のために、県内の企業をずっとまわりました。大手業者では、3〜4人の採用は考えてくれるところもありましたがA県ではそんなに採用する会社は数社です。ほとんどが中小零細企業ですから、採用は1人、よくて2人です。
 去年の報告書を見ると「不況のため新規採用はできない」という企業が多かったのですが、今年は「対応を考える」という会社が少なくなく、去年よりは少し明るいという印象はあります。県外でも、名古屋地区の自動車・部品、長崎、広島県呉の造船、電気・液晶関係などから、わりと求人もきているようです。
 しかし、人事担当者からよく言われるのは「新卒も採りたいが景気がいまいちだ」。景気が底を打ったという担当者は多いが、「新規採用まではちょっと難しい」と。
 困るのが、「即戦力」を要求してくることです。「礼儀作法から教えなければいけない」ということで、中途採用ないしは嘱託など臨時採用でまかなっている会社が多いのです。長い目で見て、若者たちを教育していけばいいと思うのですが。
 それから「営業もやってもらいたいから、大学卒を優先する」というところもあります。そういう時は「大卒者は口が上手でも、問題があったら技術者に頼らざるを得ない。そうすると技術者あがりの人のほうが、口は下手でもクレームにもその場で受け答えもできる。高卒でも技術をやっている人を雇ったほうがいいですよ」と言う。
 そんなこんなで、「うちはだめですよ」「勘弁してください」と言うところがあっても、「なんとか考えていただけないか。会社は一時的に採用しないでもいいかもしれないけど、若い人たちだって家族をもって、年金も払っていかないといけない。日本全体を考えてくれ」と食い下がります。
 そして「先生がそれだけ一生懸命、子供の就職口を探しているのは理解しますので、なんとか9月ごろには採用については考えてみます」という会社も出てきました。

◆新規採用しないと技能伝承できない

 私は現場にいたからよく分かるのですが、採用を手控えて一時的にしのいでも、年齢ギャップが生じてしまいます。五年間新規採用しないで、1年だけ採用して、また5年間採用しない。そういうことやると長い目でみれば技能がうまく伝承されない。新規採用されてから10年間もいちばん下っ端のままでいると、後輩に教えることもなく、その人も腐ってしまいます。
 新規採用しないで、下請けとか臨時工で間に合わせることも多いですが、これもどだい無理なことです。同じ仕事しているのに、賃金が本工の半分しかなかったら不満が出るし、会社としてもやっていけなくなります。下請け労働者の賃金を上げていくことも考えなければいけない。

◆やる気のある高卒者を就職させたい

 私は人事担当でやってきたわけでなく、技術畑の人間です。口も上手ではありません。でも、この仕事に一生懸命になるのは、やる気があってがんばるような高卒者を一人でも多く、就職させたいからです。自分の経験からものを言えるから、訴える力はあると思っています。
 そういう意味で「キャリアサポーター」の仕事は、高校の先生にない何かを期待できるという点で、いい制度だと思います。
 しかし、来年3月までの9カ月の契約です。せっかく企業との関係ができても、翌年は切れてしまう。また別の人が地図を見て企業を探すところから始めなければならない。もったいないことです。高校長たちは県に継続できるよう要請もしているようです。
 私の賃金は、14、5万円で、雇用保険もないし、退職金、ボーナスももちろんありません。だから不満がないわけではないのですが、とにかく自分も働く場がほしかったので、就職しました。しかも経験を生かせる仕事です。
 国や県は、中高年のキャリアを生かせる継続的な事業に、もっと本腰を入れて取り組み、実効力ある対策を打つべきだと思います。


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