労働新聞 2004年7月5日号 通信・投稿

政府はイカサマ師だ!

労働者を食い物にする年金改革

赤字続きの厚生年金基金
5年間で大幅に年金が減額

神奈川・北島 秀樹

「月収の50%」は絵に描いたモチ

 年金制度の改革はドタバタ騒ぎのうちに、自民・公明があっさり押し切った。民主党の秘策なるものもあっけなくうっちゃられた。何はともあれ、これから保険料は2017年まで毎年上がっていく。そして年金支給額はと言えば、2000年からの賃金スライドの廃止と物価スライドの凍結に加え、さらに今回の、小泉首相が答弁不能になった、あのマクロ経済スライドの導入によって、年金額がカットされることになった。これによって政府は、物価スライドによる年金額の上昇を抑えることになった。
 厚労省の案では、厚生年金のモデル世帯(妻は40年間専業主婦)の年金額は現役世代の手取り月収の50%を下回らないとのことであったが、後にそれはほんの数年だけのことであり、20年後の85歳時には40%を割り込む寸前になることが判明した。独身者や共働き世帯は初めから40%を下回っていて、85歳時には30%ぎりぎりになるとしぶしぶ認めた。
 しかし、この厚労省の試算も非常に甘い見通しのもとでのものであり、さっそくその一つが露呈した。合計特殊出生率が2002年の1.32から2003年は1.29に下がったという発表があった。しかも姑息(こそく)なことに、年金改革法が成立した後にである。
 2002年の厚労省の資料によれば、2000年時点では20歳から64歳の働き手3.6人で65歳以上の人を1人支えていたのが、2025年には1.9人で1人を支え、2050年には1.4人で1人を支えることになるのだという。これには前提条件がいくつかあるが、その中の一つが、この合計特殊出生率だ。
 2002年の予測では2007年頃にもっとも低い1.30になり、その後徐々に上昇に転じ、1.39あたりまで回復するというものだった。厚労省の予測は何度も大きくはずれてきた。この低下傾向が続くと年金保険料も年金額も大きく変更を迫られることになる。小泉首相の(モデル世帯の)50%を下回らないという約束も絵に描いたモチになりそうだ。
 また、国民年金のほうはと言えば、年金の空洞化になんら手を打たなかった。金持ちの自営業者は年金保険料を払わず、また若者を中心とするフリーター、あるいは失業者等は2017年まで毎年上がり続ける保険料を払い続けることができるだろうか? 
 現行1万3300円の保険料が毎年上がり続け、2017年には1万6900円になると説明していたが、これもまた物価上昇があれば、保険料は上がり、2万円を超えて上昇し続けることをしぶしぶ認めた。まるでイカサマだ!

空洞化する厚生年金制度

 国民年金保険料の未納率はすでに40%を超えていると言われているが、もう一つの空洞化が徐々に、しかも確実に進行している。それは厚生年金の空洞化だ。厚生年金の保険料は労使で半額ずつ負担するので、中小零細企業の中には、その負担に耐えきれず脱退する動きが目立っているという。また、新規の法人では2割以上が厚生年金に未加入というのが現実だ。
 さらに企業の倒産・リストラによる解雇等もあり、加入者数は5年前に比べて5.3%も減っている。5年前に見積もった加入者数の予測よりも2002年度は約330万人もはずれてしまった。
 厚生年金の保険料率は、現行ボーナス込みの収入の13.58%から2017年には18.30%になる(労使折半)。大企業の収益が増えて、そこの従業員がいくらかの恩恵にあずかっても、多くの下請け企業とそこの従業員は溜息をついているのではないだろうか。
 年金制度には会社員や公務員等の妻の専業主婦、第3号被保険者の問題もある。保険料免除でありながら、年金は減額されることもない。自営業者の妻は自分で保険料を最低25年も払わなければ年金は1円も出ないのだ。なんという不公平か! 今回の改革は少子化にも未納の問題にもまったく対処していない。抜本改革とはほど遠いと言わざるを得ない。
 若い人たちの年金制度に対する不信感は強い。今回はとりあえず2017年まで毎年保険料が上がることが決まったが、その後も負担が増え続けることは予想できる。国民年金は現在六十歳になるまで保険料を払うのだが、これも近い将来65歳に変更になるだろう。
 厚生年金支給年齢も従来の60歳から65歳に変更になった。一気に65歳にすることができず、生年月日により順次年齢を上げているところだ。この65歳も将来さらに70歳に近づけていくと思われる。
 すでに年金をもらっている60歳代の人は保険料負担額の五倍以上の年金をもらうことができるが、50歳だと3.2倍、40歳だと2.7倍、30歳で2.4倍、20歳だと二・三倍にしかならない。若い人はいやになるだろう。これも甘い見通しで有名な厚労省の試算だ。将来はもっと差がつくことだろう。

食い物にされる年金積立金

 年金制度の問題点として、年金積立金からの年金以外への流用と厚労省官僚の天下りがある。マスコミでも相当たたかれたが、やりたい放題だ。坂口大臣の答弁でも5.6兆円が流用されたという。また、天下りの外郭法人は百を超えるという。年金積立金が食い物にされ、どんどん減っているのだ。いったい何人の官僚がぬくぬくと生活しているのが、腹立たしい限りだ。
 もう一つの大きな問題は年金積立金の株への投資だろう。すでに18年くらい前からやっているそうだが、その結果はというと、何と6兆円もの運用損失が出ているのだ。このうち2003年度だけで3兆円もの損失だ。
 しかも株を運用している信託銀行等には赤字にもかかわらず手数料を払うのだが、その額たるや2000年〜2002年の3年間だけで870億円を超えている。まさに年金が食い物にされているといっていいだろう。今後、独立行政法人が創設され、より規模を大きくして継続していくのだという。何という無責任。だれが責任をとるんだ!
 また、公務員等の共済年金と民間の厚生年金との格差についても考えなければならない。今回の改革は国民年金と厚生年金の改革であり、共済年金については何ら改革らしきものが報道されていない。雑誌などの報道では、現行で月額3万円から4万円も多いのだという。何ともうらやましい限りだ。

代行返上で大もうけの企業

 ここで公務員の人たちにはない「厚生年金基金」の話をしてみたい。私は現在失業中だが、一年ほど前までは基金の加入員だった。基金は大企業や同業の中小企業集団が母体となって設立され、厚生年金の一部を国に代わって運用し、その運用益を従業員の年金にプラスして支給してきた。基金はほかに退職者の退職金の一部と、従業員の給料の一部も運用している。
 ただ、法律で予定利回りが規定されているため、ここ数年は赤字続きであり、その分を会社が負担しているのが実態だ。そのため最近では基金の解散、あるいは厚生年金の代行返上が相次いでいる。昨年度でも基金の解散が100近く、代行返上は200を超えている。1995年と比べると500以上も基金の数が減少した。
 私の加入していた基金でも、会社の負担を小さくするために次々と「改革」を実行してきた。この4月には代行返上の手続きが終了した。今後基金が運用するのは、退職金と給料の一部だけとなった。
 40年から45年勤めて定年退職すると2100万円ほどの退職金が出るのだが、その中から700万円ほどを基金が運用し、年金として支給してきた。
 5年前の予定利率は5.5%であったが、4年前に4.0%に、そして2004年4月からはついに2%にまで下がった。それでも運用しきれないと判断し、厚生年金の代行を返上したのだ。その結果、新聞発表によると私の勤めていた会社も187億円の代行返上益が出たという。これは現役の従業員の人たちの年金が減ったことを意味する。
 退職金と給料の一部で運営している基金から支給され、厚生年金に上乗せされて支給される額を表にしてみた。もらいはじめからの総支給額である。勤続は40年〜45年であり、定年で退職した場合である。5年間でこれだけ減ったのだ。

 最後に消費税についても言わなくてはならないだろう。2007年度の実施をめどに自民・公明・民主が相談している。小泉首相の売りは「私の任期中は消費税は上げない」だが、参院選でどっちが勝っても早晩消費税のアップは避けられない。
 無年金者や低額年金者も大勢いる。そういう人たちがこれ以上苦しくならないよう、最低限の保障を考えなければならない。


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