労働新聞 2004年6月25日号 通信・投稿

「宝の海」有明海の再生を

諫早湾・開門調査打ち切りに抗議!

有明漁民の総決起大会に参加
連携した闘いの輪を広げよう

福岡・江田 幸代

 福岡、熊本、佐賀県の有明海漁民が5月24日、福岡県柳川市で「有明海再生を求める漁民総決起大会」を開きました。諫早湾干拓事業をめぐり、亀井農水大臣が堤防の開門調査打ち切りを表明したことに強く抗議する、怒りの決起大会でした。私は、福岡県筑豊の山里から、3時間車を走らせて参加しました。

頂点に達した政府への怒り

 会場に着くと、いくつもの大漁旗がはためき、次々とバスが来て大勢の漁民が集結していました。入り口では「政府への抗議と、中・長期開門調査を求める」漁民有志が、連名でチラシをまいていました。
 集会は主催者あいさつと報告、周辺市町村の首長、県議などが続きましたが、大会決議を読み上げる時、会場が一時騒然となりました。
 開門調査の項目に「中・長期」の言葉がなかったことに漁民の間から強い抗議の声が上がったのです。数人が壇上に駆け上がって垂れ幕を引き下ろし、一人が壇上のマイクを取り、「幹部はやる気がないぞ」と言ったところで主催者から阻止され、怒りながらその場を去ったのです。
 このとき私は、最初は何が起こったのか理解できず、隣にいた熊本の漁民に聞くと、「大会決議は4つもいらない。中・長期開門調査一本に絞って徹底して要求しろということだ。特に福岡県の漁民が怒っている」とのこと。有明海漁民の怒りがまさに頂点に達している! 日焼けした漁民2000人の怒りを前に、私は鳥肌が立ち、有明漁民のことをもっと知りたいと思いました。

追い詰められた漁民の生活

 有明海のことを漁民は「宝の海」と言います。世界的にも珍しい「ムツゴロウ」などの有明海しか生息しない魚貝類がいる海。10年前、大牟田の町に行った時、魚屋さんで「大きなタケノコが売っている。何でやろー」と思ってよく見るとタイラギという貝で、とっても美味で、私の大好物でした。この貝がこんなに大きくて、こんな形とは知らなかった私は、その時妙に感動したことを覚えています。このタイラギもほぼ絶滅状況。世界的にも貴重な海が、危機に瀕しています。
 干拓工事が行われ、堤防が締め切られて以来、「宝の海」が奪われ、海と共に生きてきた漁民の中には何人もの自殺者が出るほどに追い詰められています。
 福岡県大和町では今年2月、痛ましい心中事件が起きました。働き者で真面目なノリ養殖漁民が、漁協の婦人部長を務めた母親とともに、寝食を忘れて働いた作業小屋で心中を図ったのです。「おまえとならよかよ。父さんの借金ば、担がせてごめんね」と、母親の同意で母親を殺害後、息子も自殺を図ったのですが死にきれず、放浪の末、警察に逮捕されたとのことです。
 堤防締め切りによるノリ不作による減収に加え、ノリ養殖漁場の賃貸し代金の一括払いを求められて窮地に追い込まれていました。借金は2800万円にのぼり、金融機関に融資の相談をしたものの、拒絶されたということです。
 有明漁民の間からは「不作が続き、多額の借金を抱え、将来が見えない。水と空気のような関係の母と子だった。今回の事件は他人事ではない」と、この漁民に対して寛大な判決を求める嘆願署名の活動が起こっています。母親が大好きだったというこの漁民の深い悲しみを思うと、胸が締めつけられます。
 小泉政権は米国に従属し、多国籍企業のための改革政治を行っていますが、その陰では、労働者、農民、中小業者、そして漁民など多くの国民を苦しめています。
 年間3万人の自殺者という異常な事態。この有明海漁民の血を吐くような苦しみなど、小泉には分かるはずもないでしょう。

妥協なき闘い求める漁民たち

 漁民総決起大会では「有明海、3県で2万7300人、家族含めて10万人の漁民は団結して闘おう」と提起されました。漁民は団結した、妥協なき闘いを望んでいます。彼らが望むものは「海の糧で食べていければいい」という、本当にささやかで当たり前の要求です。それすら許されない状況に追い詰められています。
 大会の決意表明で主婦は「財布を預かる漁民の主婦の立場から見ると、家計が厳しくなり、家庭が崩壊しようとしている。ぜいたくをできなくても家族が支えあって、笑いがあった家庭を取り戻したい。後継者も跡を継ぎたくても、収入がないため、陸に上がらなければならなくなっている」と訴えていました。
 今、私たちに何ができるのでしょうか。漁民だけの孤立した闘いにしてはならないと思います。世界的にも貴重な日本の宝とも言うべき有明海を、「宝の海」に戻すことは漁民だけの問題ではなく、国民全体の問題です。有明漁民の苦境に心を寄せ、連携した闘いの輪を広げなければと、強く思います。


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