労働新聞 2004年6月5日号 通信・投稿

単価はバブル時の半分以下
規制緩和で競争激化

割に合わぬ仕事も断れず

土地家屋調査士 宇佐美 智也

 私は、土地家屋調査士の仕事をしています。土地家屋調査士といっても、何の仕事か分からない人もいるかもしれません。分かりやすくいえば、測量士です。土地の売却によって名義が変わるときなどは、必ず測量し、法務局に書類を提出しなくてはなりません。そういう仕事です。もしかしたら皆さんも、道路に機械を立てて測量している人を見たことがあるかもしれません。
 測量するときには、境界線に杭(くい)を打ち込み、土地の境をはっきりさせます。皆さんの家でも、隣の家の境には、コンクリートでできた杭か金属のプレートがあり、境をしるしています。杭の誤差は3ミリ程度でなければなりません。山林などは多少緩めですが。こんなことをするのが土地家屋調査士です。
 私もそうですが、測量士は、一人でやっている人が多いのです。それは、人を雇っても給料を払えない、それぐらいの収入しかありません。もちろん100人くらいの社員がいる大手もありますが、だいたいは2、3人でやっています。
 バブルの時と比べると、単価は半分以下になっています。大手からの仕事の依頼や仲間内で仕事のやりとりをしていますが、この単価切り下げが厳しく、毎月ふうふう言って仕事をしています。
 収入は月に20万円程度の人も多く、ベテランでも30万、よくて40万円くらいです。月20万円では、東京都の生活保護世帯が年収約250万円ですから、それと変わらない収入にしかなりません。

重い機械担いで山中の測量も

 仕事の単価が下がったので、どうしても数でこなさなくてはなりません。すると、難しい仕事が多くなります。こちらが仕事を選べる状態ではないので、たいていは受けますが、どう見ても割に合わない仕事もあります。
 測量結果を法務局が調査に来るのですが、雨が続くと仕事ができません。でも、あさって調査が来るとなれば、前日までにポイントに杭を打ち込んでおかなければなりません。雨の中、重い機械を担いで山の中に入り、測量します。
 また、測量の仕事は建設といっしょに進行します。開発する土地があれば、事前に測量しなくてはなりません。だから、山の中に入って、仕事をすることもあります。先日も山の中で仕事をしましたが、山ダニにやられ大変でした。また、宅地建設の仕事では、建設業者と平行して仕事をすることがあります。そうした時、こちらが測量のためにポイントを決めて、杭を打っておくのですが、土地をならす建設業者の人がときどきこの杭を抜いてしまいます。そうなると、また、ポイントを探して杭を打たなくてはなりません。
 そして、測量結果をコンピュータに入力し、図面を完成させます。ですから、昼間は測量で現場に行き、夜はコンピュータ作業です。しかも、やっている仕事で、途中に「緊急で悪いんだけど、図面を明日、持って来て」などという電話もきます。するとその夜は、ほとんど徹夜です。翌日は、図面を届けて、眠い目をこすりながら、現場に向かいます。こんな苦労も含めて、仕事をしています。

自民党離れした業界の政治連盟

 規制緩和も影響があります。私たちの仕事は、正確さを求められるのですが、コンピュータの進歩で素人のような人でも仕事ができるようになりつつあります。最近の機械は、セットして測量する地点に反射鏡を置くと、機械が自分で反射鏡を探し、測量する事も可能です。こんな状況で、規制緩和されれば、業種の違う企業などが参入してきます。そうなれば、たまりません。ですから、私たちの県にも測量士の政治連盟がありますが、自民党支持から民主党支持に変わりました。
 でも、民主党は小泉改革が遅いと言っているのですから、民主党を支持するのは自殺行為だと思います。それでも、自民党の支持基盤だったわれわれ測量士も自民党政治に批判や不満があり、それがあらわれたのだともいえます。
 また、就職案内などで、「景気に左右されない土地家屋調査士」などと紹介されいます。そのため新規参入者もかなりいるようです。単価が下がっている中、調査士が増えることは、商売敵が増えることです。それが進めば価格破壊が起きるのは必然です。
 さらにカーナビを使った測量も近いうちに可能になりそうです。まだこの設備は数千万円の機械が必要ですが、大企業が山林などの大規模な測量に乗り出して来る可能性もあります。そして、コンピュータの進歩によって、もっと実用化されれば、私たちのような個人営業は吹き飛ばされるかもしれません。
 このような不安定な中で、私たちは仕事をしています。こうした現状を知ってもらいたくて、通信を書きました。


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