労働新聞 2004年5月25日号 通信・投稿

「勝ち組」自動車の現場では…

純利益1兆1620億円
労働者の血と汗搾るトヨタ

ベースアップ放棄、賃下げ強要
絶好調? 俺たち関係ないよ

自動車労働者 青山 元

 03年度の企業決算が相次いで発表されている。労働者と下請け企業に過酷な犠牲を押しつける中で、多国籍大企業は空前の利益をあげている。とりわけ、多国籍企業の頭目であるトヨタ自動車は、連結で1兆円を超えるケタはずれの純利益を出した。これらの利益は、労働者を徹底的に搾取することで生み出したもので、労働者の血と汗そのものなのだ。「勝ち組」といわれる自動車大手の労働者から、通信が寄せられた。現場労働者の過酷な実態と、怒りの声を紹介する。


 朝刊を手にとって、その1面の見出しに目が行った。「トヨタ純利益1兆1620億円」とある。ほおっと思って数字を追ってみる。純利益は好調な海外事業とコスト低減効果で前年比55%増、4期連続の増収増益で過去最高だとある。特集記事では「ひとり勝ち」「優れた生産システム」「勤勉」という言葉が並び、創業者から現在の会長までの経営手腕をほめたたえている。ばかばかしくなって新聞を放り投げてしまった。

 職場に行くと、休憩室ではいつものように新聞片手に、野球や大相撲の話題でにぎわっている。「今年の優勝は阪神だ!」「いや、中日はこれから底力を出すんだ!」など好き勝手なことを言い、その度に笑いが起こっている。しかし、自分の働く工場のことが一面の記事になっているのをだれも話題にしない。話題はやがて朝青龍の連勝から年金問題にまで移ったが、結局「1兆円…」はだれの口からも出ずに朝礼が始まった。ここで初めて組長から「会社の業績は絶好調」との発言があったが、だれからも反応はなく、やがてラインは動き出し、いつものように忙しい一日が始まった。
 俺たちには「純利益1兆1620億円」なんか関係ない! 会社がどんなにもうかろうと俺たちは鉄板でできた車のボディに飛び掛って、決められた部品を決められた時間に間違いなく組み付けるだけだ。走り回るリフトカーの騒音、機械と工具の音、労働者の罵声だけが飛び交っている工場の中で1秒、2秒を争っているだけなんだ! 十分もすれば汗まみれだ。
 今年の春闘(組合は夢ダブリュと呼ぶ)では、組合執行部は昨年に続いてベースアップを放棄し、一時金も前年実績よりさらに減額した額を要求額とした。「一人勝ち」「絶好調」のトヨタの組合の低落ぶりに、連合幹部や自動車総連会長からも「苦言」が出るほどだったが何の反省もなく、それどころか、賃金制度の改悪による賃下げまで強要してきた。カエルの面にションベンとはこのことだ。しかも要求の三本柱として賃金の他に、「残業低減」と「メンタルヘルス対策」を掲げたが、その実態は「残業させずにもっと実績を上げろ!」であり「自殺やノイローゼになる手前までこき使え!」にほかならない。「なぜ、こんなことを要求するのか理解できない」という疑問の声が、多くの組合員からあがったのは当然のことだった。

またも労働者が殺された

 「純利益1兆1620億円」記事の出たその日、工場で死亡事故があった。機械修理中の労働者が機械に挟まれて死亡したのだ。全工場で組長主導の安全ミーティングが開かれはしたが、本人の「安全確認不足」「不注意」と結ばれる。「安全に作業をしましょう」と唱和させようとするのだが、事故の責任は労働者個人にはまったくなく会社にあることは、俺たち労働者は知っている。
 「最大のムダ」であるラインを止めることを「人殺し」くらいに糾弾する工場では、1秒でも2秒でも早く故障を直すことは必須命題である。そんな中で、まじめに「安全確認」をしていたら、ドヤされるだけだ。この労働者も1秒でも2秒でも早く直そうと、一生懸命だったのだ。彼は「ムダ」を排除して利潤をあげることを目的とした「生産システム」、資本の論理に殺されたのだ。
 「純利益1兆1620億円」は、まさに労働者の血と汗で生み出されたものなのだ。


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