労働新聞 2004年5月25日号 青年

厳しさ増す学生生活

生活と権利守る運動巻き起こそう

斉藤 千春

生活不安

 未曾有((みぞう)の大不況で大学生の置かれた経済状況も年々厳しさを増している。
 文部科学省が4月に発表した「学生生活調査」(2002年実施)によると、大学生(昼間部)の住居・光熱費や食費、娯楽費などの生活費は年間平均86万円、前回調査(2000年)より9.4%減っている。2年間で約1割も減少しているのだ。これだけ減ったのは68年の調査以来初めてであるという。
 また、アルバイト収入や奨学金がないと学生生活の継続が困難という学生が半数近くに上っている。「家庭からの給付だけでは修学困難」と回答した人は前回33.8%だったが、今回は47.1%と大幅に増加。趣味や娯楽など遊ぶ金ほしさのバイトから、生活資金を得るためのバイトに変わってきていることが分かる。
 奨学金の受給については、「学生の消費生活に関する実態調査」(03年実施。全国大学生活協同組合連合会)を見ると、自宅外生の1カ月の収入に占める奨学金の金額は92年に1万430円、97年1万750円、03年は1万8820円と、最近五年の増加が激しい。
 多くの学生が利用する日本育英会(日本学生支援機構)の場合、借入金額が選択できるが、高い金額に乗り換えている人や自治体等の奨学金と組み合わせて収入に当てていると思われる。収入に占める奨学金の割合は、98年7.0%、00年8.5%、02年10.1%と年々高まっている(文科省調査)。
 1カ月の支出では、自宅外生は食費を大幅に切り詰めいている。03年食費は2万5120円で、過去四半世紀で最低にまで落ち込んでいる。その他に電話代や書籍代などを節約している。
 これらの調査結果からは、親の厳しい経済状況を反映して仕送りが減少する中、アルバイトと奨学金で収入対策し、節約型生活でなんとか生活を成り立たせている実態が浮き彫りとなっている。暮し向き・今後の見通しについては「苦しくなる」と答える人が増え、生活不安や就職活動などの将来に備えて貯蓄する人が増えている。

就職難

 生活が大変なことに加え、就職難は深刻さを増すばかりだ。
 昨年12月時点の調査で大卒の就職内定率は73.5%で過去最低水準になっている。97年には84.8%だったが年々低下する傾向にある。
 これを受けて各大学では、就職センターの設置、インターンシップの活用や就職セミナー、1年生からの適性検査の実施など学生の「職業観の育成」を図ろうと必死で、大学は「就職予備校」化している。18歳人口の減少と大学間競争の激化のもと、各大学当局は、企業家を講師とする授業の導入などいわゆる「勝ち組」の論理を学生に植え付け、就職率を高めて生き残りを図ろうと躍起となっている。
 しかし、実際に就職活動中の4年生からは次のような声が聞かれる。
 「必死で何十社も面接を受けたが、内定をもらえず自分を否定されたようで精神的にまいり、途中で就職活動自体ができなくなってしまった」
 「地元では求人が圧倒的に少ないので、都市部でも活動している。週の半分は就活のため都市部に行き、バイトのために地元に帰ってくる週もあり、交通費や滞在費など経済的にも、また体力的にもいつまで続けられるか…」
 「奨学金を返済するため、また親には負担をかけられないので必ず就職しなければいけないが、なかなか内定がでなくて焦っている」。
 内定を取ろうと早い時期から就職活動を始めてがんばっていても、大半の学生がなかなか思うようにいかず思い悩んでいる。

自殺者増

 また、新聞報道によると厳しい就職難などを苦にしたとみられる大学生の自殺が増えているという(読売新聞3月24日)。
 70万人の学生が加入する大学生協連共済センターによると、自殺による共済金給付件数は、90年代前半は50件前後だったが、97年度に80件台に乗った後、99年度、2000年度は99件と急増。03年度も2月末までに80件に達し、給付対象になった本人死亡のうち自殺の占める割合は48%と、90年度以降で最悪となった。91年には2.86だった大卒求人倍率が1.08に低下した96年ごろから、留年生を含む4年生以上の自殺が増えており、共済センターでは原因として「就職難や進路の悩み」を指摘している。
 自殺増加の一つの背景に、就職難とその対応にやっきになる大学の姿勢を指摘する声は多い。
 少子化の進行により経営難に悩む大学当局は、「就職に有利な大学」を「売り」にしようと、就職競争をあおっている。就職で人生の「勝ち組」/「負け組」が決まるかのような思想を学生に植え付けようとやっきになる。
 このため、学生は就職が決まらないことで自分自身に価値がないと思い込み、自殺に追い込まれていったのではないか。事態を重く見た各大学では新年度から自殺予防に力を入れるという。
 しかし、大学当局による就職対策にしても、自殺防止の窓口設置にしても、対症療法でしかない。
 そもそも、多国籍大企業のための小泉改革による不良債権処理の加速化や規制緩和などで多くの企業がつぶされ、リストラで労働者の職そのものが奪われていることが、就職難の最大の原因である。一部多国籍大企業を除いて大多数の企業が新規採用を抑え、低賃金で「使い捨て」のきくパートや契約社員、派遣社員など非正規職を拡大させている実態と、それを進める政治にこそ、この問題の責任がある。
 また、「改革」で4月から国立大学は法人化され、日本育英会の独立行政法人化も強行された(日本学生支援機構が発足)。多国籍大企業に奉仕する大学「改革」によって学費値上げや管理強化、奨学金改悪がますます加速される。
 すでにいくかの学園現場で管理強化や自治会・自主活動つぶし、カリキュラム再編、就職難問題などで、「改革」に抗する動きが出始めている。
 学生が学生自身の生活と権利を守るためには社会の変革が必要だ。同じ小泉改革で苦しむ労働者の闘いと結びつき、闘おう。


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