労働新聞 2004年5月15日号 通信・投稿

映画紹介

「CASSHERN」
監督・紀里谷 和明

斬新な映像で描く反戦メッセージ

夏山 一誠

 舞台は、50年にも及ぶ大戦争後の世界。その世界は大亜細亜連邦共和国とヨーロッパ連合という二大陣営が争い、その結果、大亜細亜連邦が勝利し、ユーラシア大陸の大部分を支配した。
 しかし、勝利したはずの大亜細亜連邦も化学兵器や細菌兵器、公害の影響で荒れ果てていた。こうした状況を変えようと、東博士(寺尾聡)は人間のあらゆる部位を自由につくる「新造細胞」を提唱する。彼の妻・ミドリ(樋口可南子)もまた公害病に体を蝕まれていた。
 絶対的な権力を振るうも高齢と病に苦しむ上条将軍(大滝秀治)は自身の延命のために軍部と強いパイプをもつ商社・日興ハイラルの内藤(及川光博)を通じ、この研究の全面支援に乗り出した。
 そうした中、東博士の息子、鉄也(伊勢谷友介)は父への反発と「正義感」ゆえに志願兵として出兵するが、戦死してしまう。
 「新造細胞」の研究は困難を極めたが、ある日異変が起き、研究室から「新造人間」たちが逃げ出した。しかし、軍は容赦なくその「新造人間」たちを虐殺してしまう。
 その時、鉄也の遺体が陸軍本部に届いた。東博士は息子の遺体を研究室に運び入れ「新造人間」としてよみがえらせる。
 逃げ出して生き残った「新造人間」たちはブライキング・ボス(唐沢寿明)を中心に人間への復讐を誓い、全面戦争を仕掛けてくる。「新造人間」軍団と闘う鉄也だが、兵士として行った民衆虐殺の悪夢に苦しめられる。「お前は戦争がどういうものか分かっていない」と言った父の言葉が頭をよぎる…。

  *  *  *

 米によるイラク戦争と占領・統治、パレスチナにおける紛争などいま改めて「戦争」の問題がクローズアップされている。
 この映画の中でも軍は「テロとの闘い」(まさにブッシュと同じ言いぐさ)と称して、「第七管区」(「新造人間」が生前住んでいた地区)の人びとを虐殺する姿が映し出され、こんにちのイラクにおける米軍の占領・統治とオーバーラップする。また、「大亜細亜連邦共和国」というネーミングからも分かるように、かつて軍部が支配していた日本の姿をも想起させる(実験のために「第七管区」の人びとを強制的に連行する様子はまさにかつての強制連行)。
 そして、その「正義感」ゆえに出兵した鉄也が目にしたものは、戦地でのむごたらしい現実だった。また、「人類を皆殺しにする」と宣戦布告したブライキング・ボスだが、自己の延命のために自分たちを造りだしたにもかかわらず、都合が悪くなるといとも簡単に虐殺する人間に対し「生命に優劣などない」と叫び告発するシーンは、抑圧された者の悔しさがうまく表現されている。単に「勧善懲悪」のヒーローものではないのである(「ヒーロー役」であるキャシャーン=鉄也も過去の自分の行為に苦しむなど決して「善人」ではない)。
 監督である紀里谷氏が「世界情勢を見ると、いまだ世界で紛争が治まらず、戦争の名前と場所が変わるだけで、……争いの繰り返しです」と述べているように、この映画がイラクなどこんにちの世界情勢を意識して制作されたことがうかがえるし、その意図は成功しているだろう。戦争のもたらす悲惨さ、理不尽さはうまく表現されている。
 自然を破壊しつくし、下層の人びとを虐げた巨大な工業都市の中で、権力者たちの欲望が、果てしない侵略戦争を生み出していく。このおぞましい風景は、地球の未来なのか。人間はなぜ争いを繰り返すのか----紀里谷監督の深い憂いと、反戦メッセージが強烈に伝わってくる作品だ。
 ちなみに「traveling」など宇多田ヒカルのプロモーションビデオでその斬新な映像を見せつけた監督らしく、その映像世界は十分に人を引きつけるものがある。
【全国松竹系映画館で公開中】


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