労働新聞 2004年4月5日号 通信・投稿

CD紹介

『タガタメ』
Mr.Children
誰がため戦った?

柄本 陽三

 人が Mr.Children(ミスチル)は、昨年秋、「タガタメ」をラジオ限定でリリースした。CD販売はされなかったが、ラジオでよく流れていたし、2月には「ニュース23」にも出演して演奏したというから、聞き覚えのある方もいるのではないかと思う。
 この曲は、去年起きた長崎市の男児誘拐殺害事件やイラク戦争に衝撃を受けて、ボーカルの桜井和寿がつくったものだ。
 曲自体はシンプルだが、彼独特の調子で、情感たっぷりに、声を枯らしながら、歌い上げる。とりわけ、「タガタメ」に続く、韻を踏んだ一連のフレーズが耳に残る。

タタカッテ タタカッテ (戦って 戦って)
タガタメ タタカッテ (誰がため 戦って)
タタカッテ ダレ カッタ (戦って 誰 勝った?)
タガタメダ タガタメダ (誰がためだ? 誰がためだ?)
タガタメ タタカッタ (誰がため戦った?)

 加害者、被害者を生み出し続ける社会の現実。だれのために、何のために、武器を持って戦い、人を傷つけるのかと、しつこく問う。
 そして私たちにできることはないか? 涙を流すしかできないのか? 祈るほかにないのか? と、聴く者に語りかける。これに対する答えとして示されるのは、手をとり、抱き合って、愛することだけ。
 はっきりいって、こんな個人的なことだけで、解決するわけもない。何甘っちょろいこと言っているんだと切って捨てることもできるだろう。
 しかし、この歌を聴いていると、一人の人間が、一人の音楽家が、目の前に起きている悲しい現実を前に、何をしたらよいか、必死にもがいているさまが浮かびあがってくる。だれの中にもある、この「もがき」を歌ったからこそ、ラジオという限られた媒体でのオンエアしかなかったにもかかわらず、聴いた人の印象に残る歌となったのだろう。イラク戦争開戦の翌日、桜井はあるメーリングリストで「世界が平和であることを望むのなら、それを探してそれぞれが日常の中で努力していかなきゃいけないと思う… 」と書いていたともいう。
 ミスチルは、今年に入って出した曲『掌(てのひら)』でも、「一つにならなくていいよ 価値観も理念も宗教もさ」と、私からすれば「米国発のグローバリズムに対する異議」を歌った。いわゆる「反戦歌」とはちょっと違うが、去年大ヒットしたSMAPの「世界に一つだけの花」とも通ずるものだ。「歌は世につれ、世は歌につれ…」とはよくいったものだ。
 感性鋭いミュージシャンたちが、時代を感じて、この世の現実や矛盾をつく歌を、どんどん歌ってくれることを望みたい。同時に、私たち自身も、共感される言葉で、世界変革のために行動を呼びかけていきたい。

 いち早く聴いてもらいたいとの思いからラジオのみでのオンエアになったそうだが、ネットで検索すればどこかで聴けるだろうし、四月七日発売のCDアルバム「シフクノオト」に収録されている。ぜひ多くの皆さんに聴いてほしい。

タガタメ
作詩・桜井和寿 作曲・桜井和寿 編曲・小林武史 & Mr.Children
 この経済の仕組みを変えない限り、悲劇は進んでいきます。


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