労働新聞 2004年4月5日号 通信・投稿

鳥インフルエンザ、BSE…
今後の食のゆくえは?

利益追求に追われる
資本主義システム
生物の大量生産が悲劇呼ぶ

農業者 大橋 咲子

 人が一日のうち、必ず考えることは「今日は何を食べようか」ということ。そして、目に浮かぶのは、連日のように報道される変わり果てた家畜の姿。少し前は牛、今は鶏です。
 資本主義経済ですから、食料もコストを抑え大量生産で利益の向上を第一の目的とします。鶏も窓のない鶏舎に一列に並ばされ、灯りはつけっ放し、寝る間もなく餌を食べさせられ、卵を産まされ病気になることを前提とし、餌に抗生物質が混ぜられます。私などが食べると「薬臭い卵」が大量に生産されます。少し卵を産むペースが下がると廃鶏として産業廃棄物となり、たった2年でその生命を終えます。
 肉鶏も同じ。生産コストを下げるために狭いところで大量の鶏を飼い、餌に抗生物質と発育促進剤を混ぜて、より早く大きく育てます。150日かけて大人にするより、50日で大人になるようにすれば3倍のもうけになる。2倍のもうけにして値段を下げ、消費者に安く供給すれば価格競争に勝てる。もっと安く、もっと競争力をつけるために薬剤の開発を進め、科学の力を駆使する。そうして、利益を上げる商品としての肉が大量に生産されていきます。
 農薬、化学肥料、発育促進剤を使う野菜の大量生産も同じことです。野菜などは、大きくなるのに必要な成分だけを集中して与えますので、過剰投与により「硝酸体窒素」なる強力な発ガン物質なども含まれたりしています。
 薬漬けで育った野菜と薬漬けで育った肉を食べる消費者が、健康で長い間暮らすことができないのは当たり前のことです。そしてこれらの生産形態が始まったのは1960年代ですから、20代、30代、40代まで、このような食べ物を食べてこなかった幸せなお年寄りは長生きしています。また、長寿番組に登場する元気なお年寄りは、田舎で暮らし、地元で取れる食材で自給自足のような生活をしています。
 家のまわりや部屋にハエや蚊を殺す殺虫剤をまき、タンスの中にも殺虫剤。部屋には除菌剤を散布する。ちょっとした風邪でもすぐに薬を飲み、自己免疫力の発達も抑えてしまう。こんな近代の生活を営む人びとが、アレルギーになったり、ガンになるのは当然のことだと思います。最近では病気になっても抗生物資の効かない子供が急増しています。

人間は生物をコントロールできない

 生あるものは皆、環境に適応して生きる能力が備わっています。野生の鳥たちがインフルエンザのウイルスで大量に死なないのも、共生という長い間の生のシステムです。野鳥たちは免疫力を持っています。
 人間がいくら薬を開発しても、絶滅した菌はありません。害虫もいません。人間は何百年、何千年というサイクルで環境に対応していきますが、菌は困ったことに、早いものでは数十秒で対応してしまいます。つまり耐性を持ちます。
 虫を1万匹殺しても、たった数匹生き残れば、生き残ったものが耐性をもち、同時に爆発的な繁殖力をもつようになります。そしてその虫を殺す殺虫剤、またそれをしのぐ虫、といった具合で終わりがありません。生きているものは皆、環境に適応して生きる能力をもっています。虫も菌もみな同じです。
 ありとあらゆる生物を利益のために、都合のよいようにコントロールすることができる、と思うのは人間の思い上がりです。結局変化の遅い動物の生が弱くなり、負けてしまいます。なんということもない大腸菌が0−157に変化する、またMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の院内感染などはよい例です。
 一部の学者、医者、獣医、文筆家たちが1970年代ごろから、この食を利益にするためのサイクルが、人間にもたらす悲劇を警告し、多くの指摘をしていますが、これら生の促成栽培は「利益を得るための必要手段」とみなされ、事態の流れは一向に変わりません。
 この経済の仕組みを変えない限り、悲劇は進んでいきます。


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