労働新聞 2004年3月15日号 通信・投稿

住民基本台帳ネットワーク
区長の本音はネット参加
山田区長が国を提訴
杉並区のとんだ茶番劇

東京 堀田佐知子

区民の7割が不参加継続を希望

 住民基本台帳ネットワークをめぐって杉並区の山田宏区長が国を訴えるというニュースが報道されました。他地域の方には、住基ネットに反対してがんばっている区長はいいなあ、と受け取るかもしれません。
 実はそうではないんです。といっても、杉並区において、住基ネット問題は、ひとことで説明できないややこしいことになっています(ややこしくした張本人は区長です)。ですから、ここで少し説明が必要かもしれません。

「横浜方式」へ方針転換

 一昨年の住基ネット運用開始に当たって、区長はさまざまなメディアに登場、住基ネット批判を繰り広げました。そして「杉並区は住基ネットに接続しない」と宣言して、全国的にも喝さいを浴びたものでした。
 ところがその後、昨年4月の区長選挙で再選された直後、区長は「横浜方式」で接続するとの方針転換を発表。つまり「不参加はやめました」ということになったのです。やっぱり。区長の本音はネット参加だったわけです。
 ここで「横浜方式」についてひとこと説明すると「将来的な全員参加を前提として、一時的に不参加希望者のデータ送付を留保する」というものです。「選択式」とはいうものの、実質は段階的な全員参加です。
 この「横浜方式」をまねようとして、区は区民に「参加を希望しない人は届け出を」と募って、8万人以上が「不参加」の手続きをしました。ところが、肝心の国や東京都が「横浜方式は認めない」と言ってきたのです。かといって区民には届け出までさせていて、今さら全員参加に切り替えることはできない。
 もともと及び腰の「不参加」だった杉並区長。松下政経塾の後輩・中田横浜市長のやり方をまねしてなんとか格好をつけようとしたけれども、それは国に拒否されて……。いま、住基ネット参加の準備はしたものの接続できないという、きわめて宙ぶらりんな状態におかれています。そこで、今回「国を提訴」を提案したといういきさつなのです。

「訴訟は区民に対する裏切りだ」

 杉並では、早くから住基ネットの問題を指摘する市民グループ「住基ネットに不参加を! 杉並の会」が活動してきました。今回の「提訴」問題について会は 「訴訟は行わず、協議が整うまで不参加を継続すること」と申し入れました。
 「そもそも、住基ネットに異議申し立てをしてきたのに、参加を認めろという訴 訟を起こすのは区民に対する裏切り」というのが会の主張です。
 まったくその通り。言うまでもなく、区民の住基ネットへの関心は高く、プライバシーの問題、国民総背番号制の危険性を感じている人も多いのです。区が行ったアンケート調査でも七割の区民は「不参加を続けること」を求めています。国が認めないというなら「はいそうですか」と不参加を続ければいいのではないかと思うのですが。現に福島県矢祭町や東京都国立市が「不参加」で一貫している例もあるわけですから。
 ちょうど今日、区議会ではこの「提訴」提案をめぐる審議がありました。与党の議員からも「訴訟なんかすべきではない」との意見が出されて、総スカン(もっとも大多数の議員は「さっさと接続しろ」という意見ですが)。この案件は継続になるそうです。まったくとんだ茶番としか言いようがありません。


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